「でも、家に帰って冷静になると『年金暮らしの私には30万円は厳しいなぁ‥‥。ああ、どうしよう』と。ただ、もし自分が買った商品を返すと言ったら手のひらを返して冷たくされ、嫌な言葉を浴びせられるのが怖い。嫌われたくない。で、返せなくなってしまうんです。これは若い女性にはない、高齢女性特有の心理なんです」
そして「後悔しても返さないで済む」限度額が、30万円だという。まさに何から何まで計算ずくの手口。ロバート氏はこの会社に6年在籍し、優秀な成績を残しながらも退社したが、
「泣きながら『ごめんね、もうお金がないの』と言うおばあちゃんに『大丈夫、大丈夫』と言って無理やりローンを組ませたり、ガンに効果があることを匂わせ、健康食品を買わせたお客さんの娘さんがガンで亡くなったことを知らされたり‥‥。今思い出しても胸が痛くなることが、たくさんあります。人の弱みにつけ込んで、お金をむしり取る。催眠商法の卑劣さはそこにあるんです」
では、催眠商法に引っ掛からないためには、どうしたらいいのかといえば、
「悲しいかな、『自分は絶対にだまされない』と思っていても、いったん会場に足を運ぶと雰囲気に飲まれてしまいます。だから、誘われても絶対に近づかないこと。これが最大の防御策です。危険なのは、商品を売りつけられる前に心を奪われてしまうこと。それを肝に銘じてください」
高齢になった親が毎日、決まった時間に出かけるようになり、決まった時間に土産を持って戻ってくる。あるいは実家に帰ったら、今使う必要のない日用品がたまっている。そんな光景に出くわしたら要注意。
「事前に『大きな買い物をする時はひと言教えてね』『もし買ってしまっても教えてね、絶対怒らないから』と伝えておくことです」
それでも被害にあってしまったら、迷わずクーリングオフの手続きを取り、国民生活センターに相談するべきと警鐘を鳴らす。
「これまで高齢者をさんざんだましてきました。だから一人でも多くの人に、催眠商法の手口を知ってもらいたい。それがせめてもの懺悔になればと思っています」
一度行ったら高額商品を買わされるだけでなく、心までも奪ってしまう催眠商法。当たり前だが、うまい話には裏があるのだ。