悪質なあおり運転のトラブルから身を守るために威力を発揮するのが「ドライブレコーダー(以下、ドラレコ)」である。
昨年10月にソニー損保が実施した「全国カーライフ実態調査」によると、ドラレコの搭載率は前年の15.3%から31.7%に上昇。あおり運転常習者を牽制するために、搭載するドライバーが増えているのだ。
昨年7月の夜間に大阪・堺市であおり運転を受けて、バイクに乗っていた男子大学生が追突され死亡した事件において、大阪地裁堺支部は「殺人罪」の成立を認定し、懲役16年(求刑18年)の判決を言い渡した(弁護側は不服として控訴)。この公判において検察側は、中村精寛被告のほかに事故発生時に近くを走っていた車のドラレコ映像も参照し、制限速度60キロの道路を衝突する直前には100キロ近いスピードで迫るなど、その時の様子を再現した。
「中村被告は、事故直後に自身のドラレコの映像を記録したメディアを抜き取り、証拠隠滅をしようとしていたが、逮捕後の所持品検査により衣服のポケットから発見されて押収となった。その映像にはバイクに追突した直後に、『はい、これで終わり』と中村被告が運転席でつぶやく映像も残されていました。今回の判決では、あおり運転では異例中の異例である殺人罪での起訴となりましたが、ドラレコ映像が決定打となった」(司法関係者)
交通事故トラブルなどの事案を担当する弁護士の高橋裕樹氏も指摘する。
「ドラレコやスマホの映像は客観的な判断材料になります。重要な証拠であり、逆にそれがないと刑事事件としての立件は難しいでしょう」
実際、動かぬ証拠となる映像はあおり運転をする側にとって大きな脅威となる。先のあおり運転常習者が語る。
「以前はそんな心配しなくてよかったんだけど、最近はドラレコ搭載してる車もスマホで動画を撮影しているヤツも多いからな。まず最初に俺がやることは、証拠隠滅のために相手のスマホを奪って叩き潰すことだよ。ドラレコを搭載している時は、カッターで配線を切って、メモリーカードも抜き取るようにしてる。ポリにパクられたくなければ、現場に跡を残すなってのは鉄則だからな」
ドラレコは大きな効力を発揮するが、決して万能ではない。いつどこで巻き込まれるかもしれない、あおり運転から身を守るためのさらなる対処法はないのだろうか──。