ドラマ「太陽にほえろ!」(日本テレビ系)のジーパン刑事の殉職シーンに代表される数々の名シーンを生み出した、不世出の名優・松田優作が40歳の若さでこの世を去ったのも平成元年のことだった。
どこまでも苛烈に生きた松田の伝説は、とてもここでは書ききれないが、その一つが遺作となったハリウッド映画「ブラック・レイン」での鬼気迫る熱演が、実はすでに末期の膀胱ガンに侵されながらの撮影であったことだろう。
「前年秋に血尿に悩まされて医師の診察を受けたところ、膀胱ガンにおかされていることが明らかになりましたが、妻が悲しむのを見たくないと、周囲にこれを明かすことはなかったそうです。しかも、本来ならすぐにでも手術の必要があるところで、世界的映画監督、リドリー・スコットの『ブラック・レイン』への出演が決まった。『たとえ命を縮めてもやらせてください』と手術を拒否して、5カ月に及ぶ撮影に臨んだんです。経験とひらめき、アイデア豊富な松田は、ハリウッドのスタッフにも一目置かれ、“先生”とまで呼ばれて誰もが再会を願っていたそうです。松田演じる佐藤は殺されるはずでしたが、あまりの魅力的な悪役ぶりに松田起用の続編を意識して、逮捕される結末に変わったとも言われていますね」(映画ライター)
この「ブラック・レイン」の公開から、わずか1カ月後の11月6日に、松田は帰らぬ人となってしまった。
長男・松田龍平は当時6歳、二男・翔太は4歳だった。すでに2人とも独特の存在感で映画、ドラマに活躍中だが、偉大な父親を超える役者にと周囲の期待は大きい。
(露口正義)