「今度よ、軍団の年表作ってくんねーかな。誰が何年に入ったか、わかりやすいやつ。悪いけど頼むな」
1カ月程前、殿から「たけし軍団年表」の作成を頼まれたことがありました。
で、この時まず思ったのは〈辞めた人も含めたら、今までいったいどれくらいの人数が殿の下へ弟子入りし、あのおかしな芸名(例・玉袋筋太郎)をもらったのだろう?〉と。
そして、いざ年表を作りだして感じたのは、その歴史の長さです。“わたくし調べ”によりますと、一番弟子のそのまんま東さんが殿に弟子入りを許されたのが1982年。最新の弟子で、今現在、殿の運転手をしている青年が弟子入りをしたのは2010年。一番弟子から最後の弟子まで実に28年。殿は28年間、たえず弟子を取り続けてきたわけです(現在は弟子を取っていません)。
しかも、弟子の取り方がかなり特殊で、何かテストがあるわけでも、明確な基準があるわけでもなく、殿いわく「その時のタイミングと気まぐれ」なのです。
で、かつてのわたくしもそうでしたが、思い詰めた表情でやってくる、行き場のない、汚い恰好の弟子入り志願の青年をタイミングだけで判断して、入門を許し、翌日から付き人や運転手にしたりするわけですから、これはかなり異常なやり方であり、ある意味、とんでもないボランティア活動だと思います。きっと弟子になれた軍団の誰もが常々思っているはずです。
〈あの時、殿の弟子になれてなかったら、いったい僕は今頃、どこで何をしていたのだろう〉と。
高校中退で、どのバイトも3日と続かなかったわたくしが、今、芸能の世界の端っこで、なんとか仕事をできている事実は、殿の“気まぐれな弟子入り制度”があったおかげなのです。
現在、どこの芸能事務所も、かなり高額な入学金を必要とするお笑い学校を設立し“芸能の世界でなんとかやっていきたい”といった若者に取っかかりを作り、この世界へのルートを紹介している時代です。が、殿は30年近くにわたり、当たり前のように無料で弟子を取り、この世界への入り口を開放しています。しつこいようですが、もうこれは壮大なボランティア活動といっても、まったく言い過ぎではありません。
そういえば以前、今はどこの芸能事務所でも授業料を取って、お笑い学校をやっているといった話を殿に振ったことがありました。殿は“お金を払ってお笑いを学ぶシステム”にまずは驚くと、
「俺もやろうかな。でもな、そんなことで金儲けしてると思われんのも嫌だしな。やっぱやめた」
と、持論を述べていました。
で、ざっとベースとなる、たけし軍団年表を作成して殿に渡すと、
「おう、ありがとな。だったら今度はあれだな。時間ある時でいいからよ、俺の年表作ってくんねーかな」
と、最高にやりがいのある仕事を振ってきたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!