外国人騎手の牙城を駆逐した川田の覚醒理由に、人間性の進化を挙げる厩舎関係者も多い。みずからも言うようにもともと短気で、思ったことをズバズバと口にする性格。それゆえ、競馬関係者から敬遠されもした。
「目上にこびない性格で、ベテランのトラックマンに『お前は』などと言っていたからね。調教師にも『走れる状態じゃないのに、なんで使ってきたんだ』と不満をあからさまにぶつけたり。そりゃ、嫌がられもするよ。でも今はそんな光景は見られず、人当たりがよくなった。結果、調教師の間で評判が上がり、必然的にいい馬が回ってきているんじゃないか」(厩舎関係者)
人当たりがよくなった原因は、昨夏のイギリス修行と言われる。年齢を問わず、全員で熱心かつ丁寧に馬づくりをしている現場を見て、心を打たれたという。以降、我の強さを抑え、協調性に富むようになった。
この修行を強く勧めた人物が、若い頃にイギリスで競馬の勉強をした中内田充正調教師だった。中内田師は開業6年目の若手だが、昨今、急激に成績を伸ばし、次代を担う存在と言われる。その中内田厩舎の主戦が川田であり、このコンビで抜群の成績を挙げているのだ 。25勝でリーディング・トレーナーの2位(4月28日現在)だが、そのうち15勝が川田によるもの。騎乗数が31だから、勝率はなんと5割という「黄金コンビ」なのである。
一方、騎乗面ではみずからレースを操るようになった。トラックマンが分析する。
「例えば昨秋のキセキのレースぶりなどで明らかです。天皇賞・秋(3着)もジャパンカップ(2着)も馬のリズムを重視したうえで前々で競馬し、自分でペースを作る。きっかけは昨春、1番人気馬ファインニードルで高松宮記念を制したことにあるでしょう。世界の競馬を席捲するゴドルフィンにとって、これが日本の競馬での初GI勝利だった」
大きなプレッシャーの中、勝利を手にしたのだ。トラックマンが続けて言う。
「川田は以前から、ロイヤルブルーの勝負服を着てレースに臨むことに喜びと誇りを感じていましたが、GIをその人気馬で勝ったことで、大きな自信につながった。そのせいか、レースコメントも明らかに違ってきています。言葉が的確なうえ、言い訳めいたことは全く言わなくなった」
そうした成長ぶりは、後輩騎手との関係にも影響を及ぼした。コワモテなところが敬遠され、近づく者はほとんどいなかったというが、
「面倒見のよさが目立つようになったね。今では藤田菜七子(21)も川田を慕っており、機会があれば指南を受けに行っている」(厩舎関係者)
33歳という年齢からも、伸びしろは大きい。下剋上成って、令和時代を牽引するエースとなることだろう。