リハビリすれど、どうしても自由に動かないものは動かない。ミスターは両手スイングを断念し、左手一本でバットを振る方針に切り替えた。
前出・読売グループ関係者が証言する。
「手に力が入らず握力が戻らないから、まず普通にバットを握ることができない。無理やり何かで縛りつけて振れば、脱臼してしまうし、左手で握って右手を添える方法も右肩、右腕がどうなるか予想がつかない危険性があった。右足も麻痺が残っているため、両手で振るとバランスがおかしくもなる。だから片手で振れるようにと600グラムの超軽量バットを特注し、左手だけでの素振りを始めました。ティー打撃もこなし、キッチリとボールに当ててはじき返したと聞きました。右手をどうにか動かすよりも、左手の強化に特化したのです。同時に、筋力トレーニングもハードさを増しました」
極秘ティー打撃が行われたのは、田園調布の自宅地下に設けられた、いわゆるバットスイング室ではないかと言われる。かつて現役時代の松井氏を呼んで素振りさせた特別な部屋。自宅には24時間体制で理学療法士がついているといい、安心だからだろう。
実はミスターは人前でこそ右手を見せないが、毎朝の日課となっている散歩の際はポケットに入れてはいない。
3月10日にBSフジで放送されたドキュメンタリー番組「長嶋茂雄がここにいる~今、日本人に伝えたいこと」は、ミスターの壮絶なリハビリに密着し、「右手」の映像を流している。散歩のシーンではポケットから出した状態だが、前後に振っている左手に比べ、右手は垂直に下がったままだ。歩きながら、
「あと腕がもうちょっと早くな、上がってればいいの。ほら、もうちょっと。よいしょ」
と言うと、ミスターは上半身と左腕を使って反動をつけ、右腕を振り子のように前後に動かした。するとようやく右腕は胸の辺りまで上がる。
筋トレマシーンに座る風景でも、ミスターは左手で右足をつかんで所定の場所に置き、右手も左手でつかんでレバーに誘導している。やはり自力ではまだ動かせないのだ。これでは始球式の両手スイングを断念したのもしかたのないことかもしれない。前出・デスクが語る。
「ここまで回復したのは奇跡的だと言われますが、医学的にこれ以上の改善は難しいのでは、との観測もあります。今後のリハビリは現状維持のためだ、と。テレビ番組で右手を見せたのなら授賞式でも、との声もあったようですが、あれはあくまでドキュメンタリーのため。大勢の国民の前でブランとした右手を見せるのはやはり衝撃度が強いのです。総理大臣の前で失礼という指摘? 総理より国民栄誉賞のミスターのほうが偉いでしょ(笑)」
確かにそのとおりかもしれない。