職場のハラスメント研究所代表理事で労働ジャーナリスト・金子雅臣氏は言う。
「誰が見てもしかたないという正当な理由がなければ今はクビにできません。しかし、この四原則を取り払おうと言っているのが解雇自由化なのです」
民法上、解雇権の乱用を認めていない日本では、企業が整理解雇を実行するには「四原則」を満たす必要がある。すなわち「人員削減の必要性」「解雇回避の努力」「対象者選定の合理性」「手続きの妥当性」。これをなしにしようというのだ。
この金銭解決によるクビ自由化には2種類ある。1つは、一定額を払えば直ちに解雇できるという「事前型」。さらに、裁判などの紛争を経て現職復帰か、やはり辞めてもらうかという場合、「再就職支援金」名目で一定額を支払い、解雇という形で解決する「事後型」だ。安倍総理も田村厚労相も前者については否定するが、後者には意欲を見せている。先の中根氏によれば、
「その金額もルール化、制度化し、経営者がクビ切りをしやすくしようということ。どうやら年収の半年分という雲行きになっているようです」
中根氏同様、この金額ルール化を厳しく批判するのは、先頃、著書「解雇最前線」(旬報社)を出版し、職場の諸問題解決に取り組む東京管理職ユニオンの鈴木剛書記長である。
「解雇無効判決が出ても、就労権が確立していない日本では、そもそも復職は難しい。解雇無効によって雇用関係を確認するわけですが、会社側としては、仕事をさせなくても賃金を払っていればいい、ということになります。元の仕事に戻るのではなく、単に形式上、会社に戻しただけ。会社の本音は復職させたくないわけですから。結局、自宅待機という形にしつつ、金だけ払い続けている企業が実際にあります。飼い殺し状態ですね」
まさに嫌がらせ以外の何物でもないが、結局は精神的に追い込まれ、退職の道を選ばざるをえなくなるという。鈴木氏が続ける。
「この法案が通ったらエライことになります。私たちが企業に交渉を申し入れても『金銭解決の水準が法律で決まったんだから、あなたと話し合ってもしょうがない』と言われてしまう」
政府はさらに、サラリーマンを失望の底に叩き落とすアベコベノミクスを準備しているという。中根氏が解説する。「解雇自由化と同時に導入しようとしているのが『ホワイトカラー・エグゼンプション』。エグゼンプションは『除外』という意味です」
これは年収400万円以上の事務職、営業職のサラリーマンの残業代は廃止する、というものである。