忘年会でお酒を飲む機会が増えてくる季節。中には、宴会で大量に飲んだあげく、尿がまったく出なくなって、慌てて病院に駆け込む患者も少なくない。
実はコレ、膀胱から尿を排出できなくなった「尿閉」の典型的な症状なのだ。「前立腺肥大症」が気づかないうちに進行した合併症で、飲酒などをきっかけに前立腺にむくみを生じ、急激に悪化することで発症する。
男性であれば、加齢とともにある程度は肥大症になるだけに、誰にでも起こりうる病気なのだ。
一般的な成人男性の前立腺は「クルミぐらいの大きさ」だが、肥大化すると卵やミカンくらいの大きさになる。これだけでは単なる「前立腺肥大」で、病気ではない。
「前立腺肥大症」は「前立腺肥大で排尿障害がある」という自覚症状によって初めて診断される。原因は特定されていないが、男性ホルモンの変化が関与すると言われ、年齢的には50代から増加して、メタボリック症候群の人がなりやすいと指摘されている。
症状自体は、残尿感や昼夜の頻尿、尿が途中で途切れる、尿の勢いがなくなる、おなかに力を入れないと排尿できない、突然尿意を感じて我慢できなくなる、といったもの。
軽症のうちは治療の必要はないが、悪化すると、血尿、膀胱結石、尿路感染、腎機能障害などのリスクも生じてくる。
原因としては、便秘、トイレの我慢、長時間座りっぱなしの状態、冷え、高脂肪の食生活などがある。さらに言えば、酒の飲みすぎにも注意したい。予防としては規則正しい生活や入浴、適度の水分摂取を心がけること。
薬物治療が一般的だが、合併症を発症した場合には、手術の必要が出てくるので、放置は禁物。50代以降で尿に関する悩みがある場合は、早めに一度泌尿器科を受診しよう。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。