「なんだ、その声? 何か拾い食いでもしたか?」
わたくしごとで恐縮ですが、12月中旬、浅草にて2時間程の独演会を開催したその翌日、風邪で熱を出し、病と疲れから声を潰してしまい、ガラガラ声のまま1週間ぶりに殿に会うと、冒頭の言葉を放り込まれたのです。
で、殿から「拾い食い」的なワードでいじられたのは、過去にも何度かあり、なぜか殿は、わたくしを拾い食いの常習人間であると思い込んでいるフシがあるのです。
15年程前も、殿と食事をすべく、指定された東銀座の恐ろしく値の張るお寿司屋さんの前で殿を待っていると、真っ白なロールスロイスで現れ、車から降りてきた殿は開口一番、
「お前、今、拾い食いしてなかった?」
と、まったくの濡れ衣ツッコミをいきなり発してきたことがありました。
ほかにも、北野映画「アキレスと亀」出演時、映画を見たダンカンさんが殿に、「映画、面白かったです。あと、北郷がよかったですね」と、うれしいことに、わたくしの芝居を褒めて伝えてくれたのですが、
「あー北郷か? あいつな、芝居よりまず先に拾い食いするクセを直さねーとな」
と、やはり“拾い食い常習犯キャラ”としてツッコむと、一切、ダンカンさんの話に乗ってこなかったのです。しかし、殿はなぜに物のあふれた今の世の中で、わたくしを拾い食いキャラにしたいのか、まったくの謎です。で、殿の中で“この人にはこういうツッコミ”と決めているパターンがいくつかあります。わかりやすいところで例に出すと、殿の相棒・ビートきよしさんです。今はほとんど会うことがないのですが、過去、たまに会うと必ず、「なんだ? 金なら貸さないよ」「相変わらず、社長だましてゴルフやってんのか?」「また怪しい商売に手出してねーだろうな」等々、ほぼ、金銭絡みのツッコミを炸裂させていました。とはいえ、かつてきよし師匠は「オレンジ共済」「KKC」「黒毛和牛商法」と、世を騒がせたマルチ商法に全部関わっていたので、仕方ないと言えば仕方ないのですが‥‥。ちなみに、そんなきよし師匠をわたくしたちは「元祖マルチタレント」と呼んでおります。
で、ある程度、殿の中で決まったパターンはほかにも、三又又三さん、水道橋博士さん、といったあたりが定番です。まず、三又さんの場合は、顔を見ると殿は必ず「お前、しぶといな~」とツッコみます。この場合の「しぶとい」は「まだこの世界をやめてなかったのか?」的な意味を込めてのものです。
次に、博士の場合は「お前、公害でやられた魚みてーな体してんな」と、かなり高度なツッコミを炸裂させます。たぶんですが、ミニマムサイズな博士の、鳩胸チックな、ややいびつなシルエットを殿は「腹を上向けて川に浮かんでいる、公害で死んだ魚っぽい」と、連想してのツッコミなのでしょう。とにかく殿は、弟子に容赦がありません。
ビートたけしが責任編集長を務める有料ネットマガジン「お笑いKGB」好評配信中!
◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!