「え~、今回は優勝者なし。準優勝もなし」
先日、台東区が主催する、1年がかりのイベント「江戸まちたいとう芸楽祭」のプログラム「第2回“たけしが認めた若手芸人”ビートたけし杯 お笑い日本一」が開催され、予選を勝ち抜いた芸歴10年未満の若手お笑い芸人たちが、この大会の名誉顧問を務める殿が見守る中、ネタを競い合い、優勝を目指してしのぎを削ったのですが、審査員の高田文夫先生やナイツさんと殿が協議をした結果、なんと「今回は優勝なし!」の結論に至り、大会最後の結果発表で冒頭の言葉を殿が言い放つと、会場の客はドッと沸き驚いたのでした。
この大会のMCを務めていたわたくしは、殿のすぐ横でこの結末を聞いた時、「なんてリアルな大会なんだ!」と、心底思いました。今、大小規模は違えど数多ある、こういったお笑いの大会で「優勝なし!」といったエンディングを迎えるのは、きっとこの大会だけではないでしょうか。大会終了後、コメントを求められた殿は、
「今日の結果は、笑いを取ってないだけ。いちばん重要なのは、われわれは芸人だから、客からお金を取って芸を見せる。客が笑ってないってことは、その価値がないってこと。みんな若いけれど、パッとお客さんを見て、合わせていかないといけない」
と、まずはまじめに答えたあと、
「はい。優勝賞金の30万は、われわれがもらいます」
と、最後はいつもどおりしっかりとオトして、爆笑をかっさらっていました。
ちなみに殿は、この大会の名誉顧問を任された時から「とにかく、その日いちばん客にウケたヤツが優勝する大会」といったことを強く掲げていました。
で、全てを終えると、殿の付き人で来ていたゾマホンらと殿にお食事をご馳走になる“打ち上げ的お食事会”があったのですが、ここでも殿は
「漫才でもコントでも、お笑いなんだから、うまいとかヘタなんてのはどうでもよくて、とにかく客にウケてなきゃダメなんだ。漫才でも、大してウケてないのに、うまいなんて言われて喜んでたヤツいたけど、そんなもんは全然ダメなんだから」
と“どこでだって、笑いの量を多く取ったヤツがいちばん偉い”的な話を、冷静にしていました。で、ぜいたくにも殿の口から直接、いつだってぶれない、こういった「ビートたけし的お笑い論」を聞くたびに、80年代初頭に巻き起こった、あの漫才ブームの引き金のネタ番組「THE MANZAI」の中で、ザ・ぼんち、紳助・竜介、B&B、のりお・よしおと、周りはほぼ全て関西勢の中、唯一東京の漫才師・ツービートとして孤軍奮闘して戦っていた殿だからこそ“漫才に西も東もそんなもん関係あるか! ここでいちばん笑いを取ったヤツが勝ちなんだ!!”といった、当時の意気込みと覚悟を1人勝手に想像しては熱くなり、なぜか毎回、感動してしまうわたくしなのです。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!