「おい、なんか変わったことあったか?」
3月末、6日ぶりにお会いした殿から、会うと決まってされる質問を受けたわたくしは、待ってましたと言わんばかりに「殿、実はですね‥‥」といった感じで、あらかじめ用意しておいた、今週のトピックスをできるかぎり丁寧に報告したのです。
で、この日、殿にお届けしたトピックスは2つ。1つ目は、現在ただならぬ猛威を振るっている新型コロナウイルス対策のため、街ゆく人のほぼ8割以上が装着しているものの、相変わらず品薄で手に入らないマスクについてのネタです。「殿、ツイッターで、こんなオヤジの写真が拡散されていました」と、前もってスマホに保存しておいた写真を提示。その写真とは、電車の座席に座った、ややぽっちゃりめの中年オヤジが、入手困難なマスクの代わりに小さな眼帯を口もとに装着したものの、お口の8割が露出している、まったくマスクの体をなしていない写真です。
きっとこの方は〈とにかくコロナが怖い。だけどマスクがない。とりあえず口を覆わなければ〉といった思考回路のもと、苦し紛れに眼帯をチョイスしたと思われ、殿はその写真を見た瞬間、「ぷはっ!」と、まずはかなり大きく吹き出すと、
「これ、くだらないよ。なんだよ、このオヤジは」
と、目を思いっきり細め、体を大きく揺らしながら爆笑したのです。そして、
「これは笑うしかないだろ。口がほとんどはみ出てるじゃねーか。無理があるよ。小さすぎるだろ、これはおちょぼ口専用だろ」
と、うれしそうにツッコミを入れたのでした。
ツイッターに見ず知らずの他人があげた写真を見せただけですが、これほど殿が喜んでくれると、まるでわたくしが“眼帯オヤジ”を直に目撃して写真を撮った錯覚にとらわれ、手柄を立てた気分になります。
で、殿はその後もじっくりと写真を吟味しては、二度ほど軽く吹き出していました。
殿がご機嫌になったのを確認したわたくしが「殿、もう1個あるんですけど」と、やはり事前に保存しておいた写真を見せると、殿は先ほどの眼帯オヤジの時以上に「ハッハハハハッ!」と吹き出し、すぐさま、
「いいな! 最高だな!!」
と、発したのです。
その写真とは、殿が会長を務める秘密情報機関「カツラKGB(カツラ・ガンガン・バラス)の全国の諜報部員から、わたくしのもとに「殿に見せてください」と秘密裏に送られてくる「町で見かけたカツラ目撃写真」です。で、その中身は、偶然乗車したタクシーのドライバーさんが、誰がどう見ても、すっぽりかぶる“美○○一タイプ”のカツラをかぶった後ろ姿の写真であり、“とにかく笑うしかないやつ”なのです。殿はその写真をやはりまじまじと吟味すると、もう気分は最高! といった感じで、
「しかし、カツラは裏切らないな!」
と、大きな独り言を炸裂させたのでした。
ビートたけしが責任編集長を務める有料ネットマガジン「お笑いKGB」好評配信中!
◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!