《東京五輪1年延期と掛けまして、竹と梅と解く。そのココロは、あとはマツしかない》鶴光
鶴光 ワシ、びっくりしたのは、昨年11月の「博多・天神落語まつり」の打ち上げ会場で、たい平さんが障子を牢屋に見立て、「出してくれ」って言いながらアチコチ回っとったこと。皆、二席やって疲れてる中、かくし芸するのはすごい。
たい平 その場にあるものでなんとか楽しませたいなって。僕の仕事はあの打ち上げだと思っているんで。
鶴光 楽屋でウワーッて騒いで、その勢いで高座に上がるタイプやね。
たい平 そう思います。鶴光師匠の時代も僕の時代も、クラスでいちばんおもしろいヤツが噺家になったでしょ。でも、今の若い子って、意外と落語が好きということで入ってきて、「えっ、あの暗いヤツが!?」って思われる。
鶴光 大阪で今ちょっと危惧されているのは、タレントになりたいヤツが落語を腰掛けにすること。けっこう増えてきた。けど、売れる売れへんちゅうのは、落語をきっちりやって、それに魅力があってオモロければ、絶対マスコミはほっとけへんて。講釈の(六代目)神田伯山がいい例や。
たい平 今は新型コロナ騒動で休んでいるんですけど、横浜にぎわい座で隔月で年に6回、毎回必ずネタ下ろしやってます。多い時は2席。もうすぐ100回。1回しかやらないネタもあるし、5年後に引っ張り出すネタもあります。
鶴光 ウチの師匠は「とりあえずどんなネタでも覚えとけ。で、だんだんと切り捨てて、ま、10本残ったらエエやろ。昔捨てたネタでも、年とったらできることもある」て言うてました。ワシも「子別れ」やり出したのは最近やし。
たい平 体動くうちは動いていたいですね。
鶴光 新作もやっとるよね。ワシ、改作して自分流にするとか、講釈を落語にしたりするのは得意やねん。でも、最初から作る才能はない。どうやって作るの?
たい平 楽しいことがフッと浮かんだ時、そこにだんだん肉をつけていくと、一席になったりします。
鶴光 なるほど。
たい平 自分はいつまでも青春落語でいきたいと思っています。うまくまとまるのは簡単じゃないですか。それよりも、動き回る青春の芸。60歳、70歳になっても青春の芸。それを目指したいと思っています。
鶴光 (五代目春風亭)柳昇師匠は80歳を超えて赤穂浪士四十七士の名前、大石内蔵助以下、全部言えた。びっくりしたで、もう。新作も作ってた。それが若さの秘訣の気がしたね。
たい平 いつまでたっても、軽~い感じがいいですね。鶴光師匠だって、軽いですもんね。軽くいられるというのは、いちばん難しいことだと思っています。
鶴光 ワシ、いまだにグラビアアイドルに「乳頭の色は?」言うとるもんね。それ、なくなってしもうたら、三文の値打ちもない。
たい平 変わらずにスケベなこと言ってくれると、僕ら、うれしいです。
鶴光 下ネタはやらんのやろ。
たい平 初代三平師匠時代から、海老名家では禁止されてるもんで。
鶴光 なのに、アサ芸向きの謎かけ、ありがたいね。
《噺家と掛けまして、仮性包茎と解く。そのココロは、中にはむかない人もいるでしょう》たい平
たい平 SNSの時代になって、人とつながらなくてもいいと思う人もいますけど、落語聴くとやっぱり人とつながる楽しさがわかります。人間の幸せの最高レベルは、落語の世界なのかもしれない。ホントに天職に就いたと思っています。
鶴光 落語はご隠居さん、八っつぁん、熊さん、与太郎らが自由奔放に動き回る。それを動かすのは噺家。主役であり、脇であり、演出家でもあって‥‥落語家ちゅうのは楽しいね。
笑福亭鶴光(しょうふくてい・つるこ)1948年3月18日、大阪市出身。67年、上方落語の六代目笑福亭松鶴に入門。74年からニッポン放送「オールナイトニッポン」などのパーソナリティとして人気。東京を拠点に上方落語の発展に尽くす。上方落語協会顧問。落語芸術協会上方真打。出囃子は「春はうれしや」。師匠譲りの豪快な話芸で「相撲場風景」「三人旅」などを得意にしている。J:COMJテレにて隔週土曜「オールナイトニッポン.TV@J:COM」、J:COMチャンネル関西エリアにて毎週土曜「ジモト満載えぇ街でおま!」に出演中。「まだ寄席が開いていた3月末に噺家仲間と楽屋で会うた時、初めは笑うとったのがだんだん自虐ネタになって。最近はそういう話題すら口にしなくなってもうたね」
林家たい平(はやしや・たいへい)1964年12月6日、埼玉・秩父市出身。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業後、88年に林家こん平に入門。2000年、真打昇進。04年から「笑点」(日本テレビ系)に師匠の代役で出演、06年からレギュラー。04年と08年、国立演芸場主催花形演芸会金賞受賞。08年、芸術選奨文部科学大臣新人賞。19年、浅草芸能大賞奨励賞受賞。落語協会理事。武蔵野美大芸術文化学科客員教授。出囃子は「ぎっちょ」。BS朝日「新鉄道・絶景の旅」などに出演中。著作は「林家たい平の落語のじかん」など。「人間って素敵だなって思えるのが落語です。酔って失敗するなどダメ人間も登場しますが、本当の悪人は出てこない。人が出会う中で生まれる喜びや悲しみ、苦しみ全てを包み込んでくれます」