「セクシャルバイオレットNo.1」の大ヒットで知られる桑名正博が、突然の脳幹出血で倒れたのは昨年7月15日のこと。絶望的な状況から3カ月──桑名と前妻のアン・ルイスとの間に生まれた美勇士が、過酷な日々を回想する。
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オヤジが亡くなって、最後に好きだったミナミの街をパレードさせたいって話になったんですわ。内田裕也さんが「オレが遺影を持つよ」って言ってくれて。ただ、正直、オヤジで人が集まるんやろかと思ったんですが、なんと5000人。橋下徹市長まで見送ってくれて、オヤジのすごさをあらためて知りましたね。
それにしても「脳幹出血」というのは何の前兆もない突発性のもので、せめて何か医者に言われていればと思うと、ホンマに悔しいですわ。
倒れる少し前に、オヤジにとっては初孫となる僕の娘が生まれて、めっちゃ喜んでくれたんですよ。電話したらすぐに会いに来てくれて、それからテレビの収録に行って、また夜も会いに来てくれましたから。
桑名は倒れてすぐに「現代の医学では助かる見込みはない」と宣告された。意識不明のまま、それでもロッカーらしい生命力で日々を重ねてゆく。それは桑名の家族たちに、「意見の相違」を呼び込んだ。
オヤジが入院すると、今の奥さんや妹の桑名晴子さんとは初日から対立したんです。オヤジは“カッコつけしい”やったから、倒れて管がついている姿にいつまでもさせておきたくない、できれば早く逝かせてあげたいと‥‥。
確かに病状として回復は不可能。ただ、0.001%でも奇跡があるから賭けてみたいと。僕は奥さんや妹さんと違って、オヤジがいなければこの世に生まれてない唯一の人間ですから、そこは反対を押し切りました。結果的にオヤジは、自然と3カ月も延命した形になりましたね。
ただ、そうなってくるとお金の問題がのしかかってくる。オヤジは先代から受け継いだ会社がいろんなトラブルで借金を抱え、自分の生命保険も解約して返済に充ててた。だから保険金もないし、月に入院費が50万~60万円もかかる。この状態が2年も3年も続いたら‥‥オヤジはそんな家族の気持ちもわかって旅立ってくれたんやと思います。
倒れた時と同じく、亡くなってすぐにロスにいるアン・ルイスに連絡しました。彼女がすぐに帰国できない状態なのはわかっていますが、せめて最期の別れに来てくれないだろうか──。
「新しい奥さんとお子さんに失礼だから」
それがアン・ルイスの“流儀”でした。
オヤジが倒れてから1年、亡くなってからもずいぶんと時間がたちました。ミュージシャンとして何か供養できないかと考え、実はオヤジが倒れる直前に2人でレコーディングしていた曲があるんです。これに、ロスに出向いてアンにも少しのパートを歌ってもらって、初めて親子3人の共演CDとなる「ONE」が完成しました。
オヤジの一周忌直前の10月23日に発売しますので、オヤジのファンにも、アンのファンにも「最後の歌声」を聴いてもらえたらと思います。