A氏は、「馬王」のデータのみならず、独自に入手したデータも予想のために用いていたという。判決主文にはこうある。
〈本件ソフトは、Data-LaboやJRDBが提供する競馬データを利用した〉
ここで指摘されているJRDB社こそ、A氏の予想をするうえで重要なデータを提供していた、いわば“指南役”なのだという。
「弊社が競馬前日に提供するデータパックをダウンロードして、プログラムに取り込んでいたのは間違いない」
と語るのは、JRDB社の奥野憲一氏だ。続けてもらおう。
「A氏は、一般ファンのように特定レースの予想をせず、実力が人気を上回る“おいしい穴馬”を、レースごとに数頭チョイスするロジックを作ったのです。買った馬券が毎回的中するわけではありませんが、的中率を軽視して回収率に着目した結果、約5レースに1回当たれば利益が得られるような馬券購入スタイルを構築したわけです」
手堅く当てるよりも大きく当てるというのが、A氏の戦略だった。そこで、A氏は穴馬券に狙いを定めた。例えば大穴なら「逃げ馬」に注目するのも鉄則の一つだ。
「忘れた頃にやってくる」とも言われる逃げ馬といえば、12年春の天皇賞で、オルフェーヴルを破ったビートブラックの疾走が記憶に新しいが、高配当をもたらしてくれる逃げ馬の単勝を買い続けると、回収率は毎年必ず100%を超えるというデータもある。
ただし「買った馬が確実に逃げるとは限らない」ため、必勝法としては不完全とも言える。そこでA氏は、別のファクターを加えて独自にカスタマイズすることで、市販のソフトの予想精度を高めていたわけだ。
その考え方は次のようなものだ。前出・奥野氏が解説する。
「例えば、弊社独自データの一例として、競馬新聞には記載されていない『テン指数』があります。これは、逃げ馬選別の精度を高めるため、全出走馬のスタート直後の3ハロン(600メートル)のタイムを、独自の計算方法で標準化しています。出走馬ごと、過去の出走レースのコース形態や馬場差が異なり、今回の枠順の優劣などもあるため補正せざるをえないわけです。A氏が弊社のテン指数をどのように用いたかはわかりませんが、弊社や他社のデータの中で『使える』と判断したものを使っていたようです」
こうしたデータを「約40のファクター」に加えることで、独自の“必勝システム”を構築していたのだ。