今年5月に判決が出た外れ馬券裁判。大阪のサラリーマンが、28億7000万円の馬券を購入し、30億円余りの払い戻しを受け1億円以上のプラス収支を稼ぎ出した事実は、競馬ファンに衝撃を与えた。はたして競馬に必勝法はあるのか。渦中のデータ会社関係者がついに重い口を開いた。
いまだ、競馬ファンの間で語りぐさになっている外れ馬券裁判。
07年から09年までの3年間に元会社員のA氏(39)が、競馬ソフトを駆使し、28億7000万円の馬券を購入。30億1000万円の払い戻しを受けていたものの、所得の申告をしていなかったことから、約5億7000万円の脱税で裁判となっているのだ。
今年5月の判決では、外れ馬券も経費であることが認められ、脱税額は5000万円に減額。懲役2カ月、執行猶予2年が言い渡され、実質上の被告の勝訴となった(検察は控訴)。
だが、競馬ファンにとって最大の興味は、いかにしてA氏が、わずか3年間で多額の儲けを出したかという必勝法、それに尽きるだろう。競馬ライターの後藤豊氏が解説する。
「競馬が儲からない最大の要因は25%の控除率にある。例えば、馬券を1000円購入すると250円が税金として控除され、残りの750円が配当に回される。どんな優秀な予想家でも、年間予想の回収率が100%を超えないのは、この控除率が壁として立ちはだかっているからです。馬券の収支を考える時、的中率と回収率の関係性は無視できません。的中率を高めようとすれば本命狙いにならざるをえず、回収率を高めるには、穴狙いに徹する必要があります。2倍や3倍の馬券は、一見当たりやすそうに思えますが、毎回こうした馬券を買っていると、回収率は75%に収束していきます。とはいえ、穴馬券ばかり買っていても、ハズレが続けば資金が底をつきます。A氏が作った馬券購入システムは、こうしたジレンマを解消する、まさに“逸品”だったのです」
今回の外れ馬券裁判の判決文では、その馬券購入システムについて次のような説明がなされている。
〈被告人は回収率に影響を与え得るファクターについて、それが回収率と普遍的な傾向が認められるか否かを、予想ソフトの機能を用いて検証した。その結果、回収率との関係に明確・普遍的な傾向が見いだせないファクターについては、ユーザー得点(独自の設定により導き出された出走馬の得点)に反映させなかった。前走着順、競走馬の血統、騎手、枠順、性別及び負担重量など、最終的に約40のファクターを採用した〉(判決文より。一部要約)
A氏は、競馬のさまざまな予想ファクターの一つ一つを検証。回収率を高めることができるデータに着目し、出走馬に独自の得点を定めていたわけだ。
そして、そのデータを市販の馬券ソフトに入力し、多額の利益を上げていたのだ。そのソフトこそが、JRA-VAN(JRAの競馬予想サービス)のビッグデータを取り込める予想ソフト「馬王」である。
前出・後藤氏が続ける。
「『馬王』をA氏が駆使したのは、『予測指数』というデータが利用できたから。例えば、出走各馬の持ちタイムを比較する『タイム指数』の場合、各馬の過去最高の持ちタイムに馬場差を考慮した数値を加えるのが一般的ですが、それだと本命馬が導き出されやすくなります。A氏は逆に、過去の時計比較から『この馬場とコースなら、このくらいの時計で走れるだろう』という発想でレースを予想した。こうした考えを、時計や枠順、騎手などにも用いたようです」
さらに通常の予想ソフトは、的中率を追求するが、独自の時計理論を組み込むなど、回収率重視のソフトである「馬王」は、A氏の考え方と一致したのだ。
◆アサヒ芸能8/20発売(8/29号)より