「40のファクター」の取捨選択も予想の精度に大きな影響を与える。競馬などのギャンブルでは、数値化できる要素と数値化が困難な要素が混在している。しかし、不確定な要素を予想に持ち込んだ場合、回収率にズレが生じる可能性があるため切り捨てていたのだ。
前出・奥野氏が言う。
「A氏は持ち時計やコース実績など、数値化できる予想ファクターを吟味していたと思います。逆に、当日のパドックや返し馬といった、具体的な数値に置き換えられないファクターは無視していたようです。また、裁判でも明らかになっていたようですが、新馬戦や障害戦を買わなかったのは、実力判断におけるデータが不足していることと、落馬や気性的なトラブルによる不測の事態を懸念してのことでしょう。そのわりに1番人気の勝率が高いわけですから、理想的回収率の妨げになる。購入しなかったのは当然の策でしょうね」
さらに、A氏はレースごとの購入金額についてもくふうをしている。一般的に予想ソフトを用いた場合、算出した各馬の指数が、人気のない穴馬に高評価を与えていたとしたら、大きく勝負したくなるのがギャンブラーの本音だろう。逆に、本命馬より穴馬の評価が低ければ、そのレースには手を出したくなくなるのが心情だ。そこで配当妙味に応じて投入金額を増やしていたという。さらにはこんなカスタマイズも施している。
〈残高が増えれば馬券の購入金額を増やし、減れば購入金額も減らす金額式を作成した〉(判決主文より)
あくまでも手持ち資金の中で、競馬に興じていたのだ。そうして積み上げた利益は、最大に儲かった1年目の07年こそ1億円だが、08年2600万円、09年1300万円と、利益こそコンスタントに出しているが、金額自体は大きく減っているのだ。
前出・後藤氏が指摘する。
「恐らく07年に膨大な利益を手にしたことで購入金額を増やした結果、自分の投票がオッズを下げてしまったのでしょう。また、パソコン予想の普及により、同じ買い目を買う人もいたかもしれません」
とはいえ、3年連続のプラス収支は驚異的な数字と言っていいだろう。