目まぐるしいストーリー展開に心震えた瞬間、好きなキャラの死に際に涙した時‥‥。「週刊少年ジャンプ」に夢中になった我々にとっての「黄金時代」は、読者の数だけ存在する。その読者が最も膨れ上がった発行部数653万部を記録した時期の編集長が、その牽引役となった作品の舞台裏を激白した!
79年、「週刊少年ジャンプ」はターニングポイントを迎えた。のちに第5代編集長となる堀江信彦が集英社に入社し、ジャンプは発行部数300万部を突破した。68年の創刊から11年目にして、他誌を大きく引き離し、少年漫画誌の王者に君臨したのだ。
しかし、2年後の81年には、ジャンプの勢いにかげりが見え始める。300万部を切る週も発現した。その背景には、いわゆる「ラブコメブーム」がある。「少年サンデー」が「タッチ」(あだち充)や「うる星やつら」(高橋留美子)など、ジャンプとは一線を画する作品を掲げ猛追していた。
この部数の足踏み状態から脱するために、ジャンプが選択したのはブームに便乗しないことだった。男臭い路線を貫いたのだ。
そして83年に連載が始まった作品が、ついに「ラブコメブーム」に引導を渡す。入社4年目の若手編集部員だった堀江が担当した「北斗の拳」(作・武論尊/画・原哲夫)だ。
伝説の暗殺拳「北斗神拳」の使い手、ケンシロウの闘いと生き様を描いた同作は、「お前はもう死んでいる」の名セリフとともに一気にブレイクし、ジャンプの部数を浮上させた。堀江はこう話す。
「もちろん『北斗の拳』だけで部数が伸びたわけではないけどね。ただ、『北斗の拳』の連載開始が、それまで中学生が読者の中心だったジャンプに、気になっていたけど雑誌を買うまでに至っていなかった高校生や大学生が入ってくるきっかけになったと思う。連載が始まって1年で部数は80万部も伸びた。そうこうするうちに、『ラブコメブーム』が終わってしまった」
武論尊が紡ぎ出す熱い男たちのドラマと原が描く重厚で迫力のある絵が、読者層を拡大させた。そして、84年にジャンプは発行部数400万部に達した。
その牽引役となったのは「北斗の拳」であることは、連載1回目から読者アンケートが1位だったことに表れている。
「でも、ジャンプで最初から人気のある作品というのは少ない。ほとんどの作品は、連載しながら読者の反応を見て、方向性を変えていくことで人気を獲得していく。『ドラゴンボール』(鳥山明)だって、(キャラクターたちがトーナメントで戦う)天下一武道会が始まってから本格的に人気が出た。最初から人気があったのは『Dr.スランプ』(鳥山明)と『北斗の拳』くらいだった」(堀江)
確かに、ジャンプには途中から内容が変わっていく作品が多い。しかし、「北斗の拳」はスタート時から一貫して方向性に変化がない。まさに狙いどおりの大ヒット作となった。