「北斗の拳」連載スタートまでには、さまざまな紆余曲折があった。
「原先生はデビューの頃から僕が担当していた。当時は色白でスマートな美少年だった(笑)。最初は月例の新人賞に出させたんだけど、何としてもデビューさせたくてね。審査員のコンタロウ先生のところに応募原稿を持っていく時、一目でわかるように原先生のをいちばん上にして持っていった。コンタロウ先生が『編集部のイチオシは?』って聞くから、勝手に『これです!』って原先生の原稿を見せた」(堀江)
その後、原はみごとにデビューを果たすが、最初の連載作品は失敗に終わる。
「『鉄のドンキホーテ』(82年連載)っていうモトクロスを題材にしたマンガを描いてもらったんだけど、これは僕の趣味を押しつけちゃって、失敗だったね。結果的には10週で終わるんだけど、実は途中から人気が出始めていたんだ。当時の編集長にも『もうちょっと続けてみるか?』って声をかけられていた。だけど、これは何か違うなって僕も思っていたんで、原先生に相談もせず『いや、やめます!』って勝手に断っちゃった」(堀江)
堀江の勝手な決断が「北斗の拳」の大ヒットを生む契機となる。初連載作品の終盤には、すでに次の作品の準備をスタートさせた。拳法に興味を持っていた原の意向を生かす形で、のちの「北斗の拳」の原型となる読み切り作品が誕生する。
連載された「北斗の拳」とは違い舞台は現代となっている。主人公の霞拳四郎が、恋人を殺した悪党と戦う。すでに、「北斗神拳」も「お前はもう死んでいる」も登場していた。
しかし、この読み切りが編集部内で思わぬ議論を巻き起こすことになる。
「『おもしろい』って言う人もいれば『漫画じゃない』っていう意見もあってさ。ある先輩からは『こんなのウケるはずない』と断言された。この議論は連載開始時も続いてね。連載版の『北斗の拳』の世界観は、映画『マッドマックス』をモチーフにしているから、『この映画がウケているじゃないですか』と反論したけど、その先輩は『あんな映画、ウケてない!』って言いだして(笑)。もう胸倉をつかみかからんばかりになったこともあった」(堀江)
編集部内の論争を収めたのは、堀江の腕力ではなかった。全ては作品への読者の支持であった。当時の編集長である西村繁男は新人育成の目的で創刊された雑誌「フレッシュジャンプ」でテスト的に掲載することを提案。2度にわたって掲載された読み切り版「北斗の拳」は、並みいる人気作品を押しのけて読者人気1位を飾ったのだ。
こうして「北斗の拳」はジャンプでの連載に向けて本格始動することになる。