「食事中に口を大きく開けたら、顎が痛い」「あくびをした瞬間、顎が鳴った」──このような症状は「顎関節症」かもしれない。かつては顎のかみ合わせの悪さが原因で発症すると考えられていたが、今では生活習慣病の一つとして認識されている。
日頃、無意識で行う歯ぎしり、食いしばり、ほおづえ、片側の歯ばかり使って食べる、うつ伏せ、猫背、ストレス、外傷などが原因となり、顎の関節の骨や筋肉、靱帯などのバランスが崩れることで発症する。
顎の痛みや開けにくさ、関節音のいずれかが一つでもあったら、歯科か口腔外科を訪れたほうがいい。ただ生活習慣病だけに、特効薬や確立された治療法があるわけではない。
対症治療としては、痛みを緩和させるための薬物療法や、顎を動かす運動療法、マッサージや冷温などの理学療法が施される。場合によってはマウスピースを使用することもあるが、大事なのは顎関節症になるリスク因子を解消することだ。
痛みなどの症状があるうちは、関節や筋肉を冷やさないようにするほか、歯を食いしばらないこと、急に顎を動かす動作や大きく口を開けて笑う・あくびをするなどは避けること。ほおづえをつくことや、うつ伏せ寝はやめて、硬いモノをかんだりすることも避けよう。食べる時にはできるだけ両側の奥歯を使ったり、正しい姿勢を心がけて。
さらに、ストレスが食いしばりや夜間の歯ぎしりを引き起こしている場合もあるため、適度な運動をすることも重要である。
ちなみに、メディアで言われる「かみ合わせを治したら顎関節症も治り、全身の調子がよくなった」といったエピソードは、残念ながら医学的根拠はない。深刻ではないものの、特効薬はなく、誰でも生活上の習慣でなりうる身近な病気。日常生活での注意が何より大切だ。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。