エンタメ

藤井聡太「8冠」までの1000日計画(8)コンピューター導入は13歳

 AIソフトは「何%、先手がいい」というふうに戦況判断をしてくれる。

「その数字自体は正直、どうでもいいんです。真に受けている棋士はあまりいないと思います。けれど、どんな数字でも頭の外側にあれば『洞窟に手すりがある』感じなのです」(豊川七段)

 人間の棋士は「読み」と「大局観」を磨いて戦況判断に着手するが、AIは「探索(しらみつぶし)」と「評価関数(どっちが得をしているか)」の計算力でそれを割り出していく。

 将棋のAIソフトは、2005年に理学研究者の保木邦仁氏が開発した将棋プログラム「ボナンザ」が「評価関数の自動生成」という画期的仕組みを搭載したことで一気に精度が向上。過去の大量の棋譜を「教師」として「この前例なら勝ちに近づく」と自動学習するプログラムが誕生したのだ。

 保木氏はソースコードを誰もが無料で使えるように開示し、現在まで続く将棋AIソフトの源泉となっている。17年に当時、名人だった佐藤天彦九段(32)が当時の最強ソフト「ポナンザ」と対戦したが連敗。これにより、人間よりAIソフトのほうが強いと証明され、話題になったことがある。

 AIソフトをうまく取り入れて強くなった棋士といえば、今や対人の練習将棋を減らし、ほとんどコンピューター相手にしぼって勉強している豊島将之竜王(30)や千田翔太七段(26)の名前が挙がる。千田七段は三段リーグ時代の藤井棋聖(当時13歳)にコンピューター導入を勧めたことでも知られる人物だ。

「現役棋士が具体的にどうコンピューターを使っているかは企業秘密です。教えることも尋ねることもありません。複数のソフトを使う棋士もいますし、さまざまです」(豊川七段)

 とにもかくにも、棋士たちは自分の固定観念のすぐ外側に何があるかを常に模索している。結果、AIが近年の将棋界にもたらした流行には以下のことが挙げられよう。

【1】スピード重視の傾向になった。昔は「桂馬の高跳び歩の餌食」と呼ばれたが、序盤からぴょんぴょん跳ねるようになった。

【2】王様が薄くなった。守りの手を抜いて攻める。

【3】とうの昔にすたれてしまった戦型の出現率が上がった。簡素な守り方の「雁木」の流行や、藤井棋聖が王位戦第2局で指した「土居矢倉(昭和15年に土居市太郎名誉名人が採用)」の80年ぶりの採用など。

【4】「角換わり」や「相掛かり」など乱戦型の定跡化が進んだ。

 つまりは「それではうまくいかないよ」と一度は捨てられたセオリーが見直され、脚光を浴びているのである。特に【4】の乱戦について、豊川七段が指摘する。

「コンピューターを使うと、順列組み合わせ研究のしがいがある。歩をえっちらおっちら進めて、歩の下から銀桂が出ていく将棋に慣れているベテランは、今の若手の感覚には付いていけませんね」

(本記事は週刊アサヒ芸能8月18日発売号に掲載)

カテゴリー: エンタメ   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
長与千種がカミングアウト「恋愛禁止」を破ったクラッシュ・ギャルズ時代「夜のリング外試合」の相手
2
暴投王・藤浪晋太郎「もうメジャーも日本も難しい」窮地で「バウアーのようにメキシコへ行け」
3
日本と同じ「ずんぐり体型」アルプス山脈地帯に潜む「ヨーロッパ版ツチノコ」は猛毒を吐く
4
侍ジャパン「プレミア12」で際立った広島・坂倉将吾とロッテ・佐藤都志也「決定的な捕手力の差」
5
怒り爆発の高木豊「愚の骨頂!クライマックスなんかもうやめろ!」高田繁に猛反論