元衆院議員の宮崎謙介氏が足掛け5年の議員生活の経験をもとに、政治家ウオッチングやオフレコ話、政治にまつわる話を適度な塩梅で、わかりやすく「濃口政治評論家」として直言!
山口が大闘争になっていますね。任侠じゃないですよ。山口県の選挙区の話。先々月、自民党参院議員の林芳正氏が「山口3区から、河村建夫氏を押しのけて衆議院へ鞍替え。母方の実家である宇部興産のお膝元から出馬するのか」とメディアで報じられた話です。これね、そんなちっちゃなことではないんです。
僕の先輩議員が、林氏のご自宅に訪問した際のこと。先輩は独特な存在感を放つ肉筆の掛け軸に気づき、「これはどなたの掛け軸ですか」と聞くと「坂本龍馬さんのです」と答えたそうです。そしてなんと、林家は木戸孝允からの血筋だというのです。
木戸孝允といえば別名、桂小五郎。西郷隆盛、大久保利通らと薩長連合を結び、倒幕を計った「維新の三傑」のひとり、幕末のヒーローです。母方が宇部興産というのもすごいけれど、それ以上のキラーカードが出現。林家はつまり、山口県では相当、格が高いお家柄なのです。先日、安倍晋三前総理が、山口県に眠るお父様・安倍晋太郎元外相の墓参りをしたことがニュースになりましたが、祖父の岸信介元総理よりも、林家のほうが歴史があります。地元は「我ら木戸孝允の末裔が参議院ではもったいない。ぜひ衆議院から総理大臣に!」と願っているわけで、文科相も農水相も経験した本人としては、まんざらではありません。
なぜなら、安倍さんが退陣、そこに打って出た岸田さんも宏池会の中で失速気味です。
さぁ、次は林総理だ‥‥と浮上した待望論。自分の出身地から出た偉人の末裔は応援したくなるもの。独眼竜政宗の子孫と聞いたら、宮城県人は喜びますよね。武田信玄のひ孫が議員に立候補したら山梨県人が応援しますし、西郷隆盛の末裔が有名人でしたら、きっと鹿児島の人はそれを自慢するでしょう。そう、まさにこのタイミングで、林さんが打って出てもおかしくありません。
しかーし! そこに「ちょっと待ったァ!」と登場したのが二階組長、いや、幹事長です。圧力をかけられた林組は「おタクらだって新潟の鷲尾英一郎を鞍替えさせ、さらには細野豪志まで二階派に取り込もうとして、やりたい放題じゃないか」と。
負けられない二階幹事長は「あれは衆院議員同士の話で、今回のような『参』から『衆』に鞍替えするなどナンセンスだ。『参』は『衆』に守られているのに、そんな仁義のないことをして」。ゴラァッとばかり、もうドンパチです。
もともと山口県は、現在の3区と4区にあたる旧山口1区を河村元官房長官、安倍前総理、林氏の父・義郎氏(元厚生相・大蔵相)が縄張にしてきました。96年の小選挙区制導入で、義郎氏は比例に転出。義郎氏の没後、芳正氏が参院山口選挙区から出馬しているので、3区がダメなら4区に回るというストーリーもあります。けれども、4区で戦って安倍さんを敵に回すのは時期尚早。そうかといって、3区で戦うとしても自民党からは打ち首(除名)となり、茨の道が待っているでしょう。
とはいえ、そこは幕末革命家の血脈が流れているのですから、まさにパラダイムシフトの時。「大道行くべし、又何ぞ防げん」(桂小五郎)。
宮崎謙介(みやざき・けんすけ):1981年生まれ、東京出身。早稲田大学を卒業後、日本生命などを経て、12年に衆議院議員に。16年に辞職し、経営コンサルタントや「サンデー・ジャポン」(TBS系)などに出演。「バラいろダンディ」(TOKYO MX)ではレギュラーMCを務める。