〈なにもそこまで‥‥〉と、見ているこっちが疑問に思うほど、殿が爆笑した映像があります。
それは、名古屋の東山動物園にいる「おっさんのような鳴き声を出すテナガザル」の映像です。
殿はその映像を見た瞬間、「プハッ!」と、ものの見事に吹き出すと、そこから先は「ハッハハハハ!なんだよ、こいつは!!」と、顔をクシャクシャにして、涙を流さんばかりに爆笑したのです。
確かに、猿から発せられる、真夜中のサウナの仮眠室でよく聞くような、おっさんの大きなうめき声に似たその声は、問答無用におかしく、笑ってしまいます。が、一度見れば十分で、2回目からは、当たり前ですが、初めて見た時のような爆笑には普通なりません。ですが殿は、その映像を何度見せられても、まったく飽きることなく毎回、初見のように見事に爆笑するのです。そんな殿を見ていて、〈長い間、芸能の世界の最前線でもっと面白いことをたくさん考えてきた方が、猿の面白映像であれほどまでに何度も爆笑するものなのか?〉と、少しばかり疑問を感じてしまいます。
で、殿が近年、おっさんの声の猿と同じくらいに爆笑をした映像があります。それは、皆様もニュースなどでひと頃見たことがきっとある、2013年12月、ネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領の追悼式で、突然現れた“まったくデタラメな手話通訳をする黒人”の映像です。殿はその映像を目にした瞬間、大変無邪気に爆笑すると「いいな!」を連発。その後も忘れた頃にその「デタラメな黒人手話」の話を振ると、「あいつは最高だな!」と途端に喜び、機嫌がはっきりとよくなるのです。
で、殿がデタラメ手話を好む理由は、おっさんの声の猿の時とは違い、なんとなく理解できます。
きっと殿は、世界に中継される、これ以上ないかしこまった場で、なぜか潜り込んでしまったインチキな通訳が、何食わぬ顔で長々とデタラメな手話をやりきったその度胸と、世の中をなめきった感じが、たまらなくツボに入ったのでしょう。実際、殿自身もこれまで、そうしたかしこまった場で、平気な顔をしてボケて、笑いをかっさらってきました。
過去に何度も目撃してきた、そんな事例の中で、まだこちらの連載に書いていないものといえば、映画「あの夏、いちばん静かな海。」公開時、東京国際映画祭に呼ばれた殿が、居並ぶ各国の外国人記者を前に、通訳を通してした挨拶です。
殿はまず、まじめな顔で「マイ・ネイム・イズ・アキラクロサワ」と自己紹介をかますと、映画の内容を聞かれて、
「主人公はアベサダって言って、男の金玉を切り取る映画です」
と答え、それら全ての殿の発言を、通訳がいちいちまじめに通訳し、さらに、外国人記者が皆、そんな通訳内容を、なんの疑いもなくメモっていた光景です。あれは、今思い出しても実に痛快な場面でした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!