「正月はずーっと小説書いてたよ」
1月9日、新年1発目の生放送出演のため、20時32分にTBSの楽屋に入った殿は、わたくしが「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」と定型のあいさつをすると「おう」と返し、ややあってから冒頭の言葉を漏らしたのです。さらに「おせちで酒飲むのもせいぜい2日だな。飽きちまってよ、酒もほとんど飲まなかったよ」と続けたのです。
正月は自宅にこもっていた反動でしょうか? この日の殿は終始、ずーっとしゃべっていました。
「おい、ネットフリックスであれ観たぞ。人質に全員同じツナギ着させて逃げる銀行強盗のやつ(たぶんスパイクリー監督の映画『インサイド・マン』)」
「しかし、井岡は強かったな! あれよ──(ここから、熱いたけしボクシング解説が2分ほど続く)」
「おい、お前、『進撃の巨人』って観た? 面白いの?」
「あれか。俺も『鬼滅の刃』は読んだほうがいいのか?」
ツービートの往年の漫才のように、話題はめまぐるしくビュンビュンとチェンジします。そんな殿が“そろそろおしゃべりをやめて衣装に着替えるか”といったタイミングで、
「そうだ。今年は古物商の資格取ろうと思ってよ!」
と、唐突に宣言。で、本番15分前、着替えを済ませ、楽屋からスタジオに移動すると、ここでもタップダンスのステップを踏んで体を動かしながら「古物商の資格ってのは、試験か何か受けんのか?」と、やはり止まりません。そんな殿の問いについて、すぐさまスマホで調べると、どうやら試験も講習もいらず、書類だけ揃えれば申請で資格を頂けるらしいとわかり、その旨を伝えると、
「そりゃいいな! 古物商の資格持ってりゃ~、俺の私物とか絵とか売れんだろ? な? だったらよ、ギャラリー開いて、俺の絵なんか飾ってよ、そこで俺の使った歯ブラシとか、食いかけのみかんとか売っちまうか!」
と、例によっての悪乗りがスタート。そして、
「だけど、問題はギャラリーの場所だよな。青山とか銀座とか、アートがわかるヤツがいる場所に出すのはまずいよな。やっぱり足立区とか練馬とかよ、ギャラリーなんか入ったことねーヤツが住んでるとこに出さないとな」
と、本気なのか冗談なのかよくわからない分析を始めたのです。さらには、
「餃子の店だってよ、宇都宮の激戦区に出したってダメだろ。どうせ出すなら、餃子なんか食ったことねーヤツが住んでる田舎に出して、一切他の餃子と比較させなきゃいいんだから。まずいって言われても『これが餃子なんだよ!』って言い張って、食わせとけばいいんだから」
と、独自の「店舗出店論」を本番ギリギリまで実に楽しそうに語る、正月休み明けの殿なのでした。しかし「餃子を食ったことねーヤツ」なんて、はたして今の日本にいるのでしょうか?
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!