「今日は見たいドラマあるから帰る」。かつてビデオが普及していない時代から、そんなふうに、どうしても見たい数々のメガヒットドラマがあった。「倍返し」「じぇじぇじぇ!」で話題をさらったオバケ番組が出現した今だからこそ、時を越えて振り返りたい。そんな高視聴率ドラマの、「シビレるような最終回メモリー」を出演者らが連続激白した!
あの「半沢直樹」も及ばなかった不滅の記録──それが「積木くずし」(83年、TBS系)の最終回における45.3%の視聴率だ。サブタイトルの「親と子の200日戦争」に込められた壮絶さを、母親役の小川眞由美(73)が回想する。
「放映当時、私の家の前を30人くらいの幼稚園児が歩いていたの。引率の先生が『あのドラマのお母さんのおうちよ』と言ったら、園児たちが一斉に『かわいそう!』って大合唱したのよ」
民放ドラマの歴代1位は、それほど浸透力が高かったと小川は語る。
俳優・穂積隆信が“娘の非行と家庭内暴力”をテーマに書いた「積木くずし」は、300万部のベストセラーになった。有名な俳優の実話は、当時の世相と相まって社会現象に発展。
そしてドラマ化が決まると、非行に走る娘・香緒里を高部知子が、激しい家庭内暴力に翻弄される母親を小川が演じた。
「私はそれまで『アイフル大作戦』(TBS系)とか『女ねずみ小僧』(フジテレビ系)とか“暴れる”ほうの役柄が多かったけど、ここでは娘に“暴れられる”役でしたわね」
高部が鬼の形相で「クソババア!」を連呼し、小川の全身に蹴りを入れる。まだ15歳の高部が、大女優を相手に遠慮がないはずはない。
「最初はぎこちなくて、だから私は『楽屋で挨拶なんかしなくていい。私のことを憎んで、恨んで演じなさい』って言ったの。そのうち知子ちゃんも香緒里の役が乗り移ってきて、親にもわかってもらえない怒りや苦しみが表現できるようになっていったわね」
実は小川自身、デビュー当時に「悪女」の役が続いたため、ずいぶんと傷ついたという。ただ、こうした役をこなすうちに、演技者としては、これが「ステップ」なのだと気がついた。
そして全7話のドラマは回を増すごとに視聴率が急上昇。これには小川も意外だったと言う。
「失礼ながら、そこまで当たるとは思っていなかったの。知子ちゃんが天才的とか言われたけど、私は原作の力だと思う。家庭内暴力というものを隠していた時代に、穂積さんが書いたことによって、同じような悩みを持つ人たちに救いを与えたと思いますから」
最終回では無事に娘が更生する“大団円”だったが、むしろ波乱はここから。モデルとなった穂積の娘は本に書かれたことで再び非行を繰り返す。
そして、主演の高部は、ベッドでタバコをくわえた「ニャンニャン写真」が流出してしまう──。
「知子ちゃんは現代っ子でしたから、急に売れて“出る杭は打たれる”のたとえのごとくスキャンダルに巻き込まれてしまい、本当にかわいそうでした。私は、あの子には幸せになってほしいとずっと願っています」
今年に入って小川は、原作者の穂積と30年ぶりに再会した。妻との離婚、娘の若すぎる死に見舞われながら、穂積の表情は「悟りの境地」に達していたという。
「世間にも、私にも『積木くずし』を書いたことでおわびをしたいとおっしゃっていた。でも、あの本が世の中に与えた役割は大きいですし、私も女優冥利に尽きる役をやれたと感謝しています」