元衆院議員の宮崎謙介氏が足掛け5年の議員生活の経験をもとに、政治家ウオッチングやオフレコ話、政治にまつわる話を適度な塩梅で、わかりやすく「濃口政治評論家」として直言!
蚊がウジャウジャ湧いてきました。刺されて「かゆい、かゆい!」とかきむしって騒いでいる人がいると、近くで聞いている人も不思議とかゆくなってきます。そう、かゆみは伝染するのです。
政府のコロナ対策分科会の尾身会長がこのところ、政府に対して強い発言を繰り返しています。が、尾身会長のそれは「伝染した」のだと、永田町関係者は言います。「五輪はまずい、まずい」と喚く分科会のメンバーの訴えを耳にして「まずい」が移ったと。
そもそも尾身会長は、政府と二人三脚でやってきた人です。コロナ対策に関してマスコミから発言を求められた際は、田村厚労大臣とすり合わせをして「僕がこう言ったら、君はこうね」といった感じで、あらかじめ答えを用意する「台本」があったと聞いています。
それが、今月初めあたりから雲行きが怪しくなった。五輪に伴うコロナの感染拡大リスクをめぐり、田村大臣と対立しているように見えてきました。記者会見では田村大臣が、
「尾身会長の考え方は、自主的な研究の成果の発表ということにしておきます」
と言い放ち、突き放しています。
その後の報道でも「政府は尾身氏らの言動にあらかじめ『枠』をはめたとも言える」とありました。この様子ではどうやら、台本なしの対立のようです。
この背景について、与党の中堅議員は次のように解説してくれました。
「今回の尾身会長と政府の関係悪化には、二つの見解があります。ひとつは、尾身会長は自分のメッセージを介して『国民の行動が緩んではいけない』と慎重に言葉を選んでいる。今回の五輪開催が『GoToキャンペーン』と同じように感染爆発につながってはいけない、と。五輪観戦と感染者増加には直接の因果関係はなくとも、結果として人流が増えて、人が接触します。そうなると『ほら、みたことか』になりますからね。それともうひとつ、実は尾身さんはおしゃべり好きで目立ちたがり。ヒーローになった気分で、ご自身の考えが爆発していったのではないか」
つまり、政府は尾身会長を「枠」にはめようとしたけれど、ナマの台本という枠からはみ出たとたん、アドリブが炸裂しているというのです。
分科会メンバーからの突き上げが厳しすぎて焦りが伝染してしまった尾身会長ですが、このまま膠着状態を続け、なし崩し的に五輪に突入。ワクチンもここにきて、急ピッチで加速。国民接種率が上昇、オリンピック開催時には、高齢者への接種はほぼ完了。若い人の接種率も思いのほか上がり、やがて感染者数とワクチン接種率はクロスして、感染者数の比例グラフが下降していく──。そうなったら東京五輪は無事に成功を収め、政府は万々歳です。
などと考えると、そもそもこの仲違いっぷりも台本通りで織り込み済みなのかも、という邪推すらしてしまいます。
本来、尾身会長は学者を煮詰めたような人であり、政府にとって「害」はありません。秋口には蚊もようやく体力がなくなり、弱まってきます。その頃にはまた、田村大臣との関係が「かゆいところに手が届く仲」に再び戻っていることでしょう。
宮崎謙介(みやざき・けんすけ):1981年生まれ、東京出身。早稲田大学を卒業後、日本生命などを経て、12年に衆議院議員に。16年に辞職し、経営コンサルタントや「サンデー・ジャポン」(TBS系)などに出演。「バラいろダンディ」(TOKYO MX)ではレギュラーMCを務める。