今から34年前、朝日ヶ丘に引っ越してきた美少女の転校生は人の妻となり、母となって再び思い出の街に戻ってきた──。そんな順風満帆な半生は、CMで描かれた虚構でしかない。かつての美少女が美しい大人の女になるまでに歩んだ真の年月は山アリ谷アリ。浮名を流したオトコとの過去は波乱万丈なのだ。
街路樹が並ぶベッドタウンの遊歩道。そこに、並んで歩く親子がいる。
「ママもあなたぐらいの時に初めてリハウスしたの」
そう娘に語りかけるのは、48歳の宮沢りえ。木漏れ日の柔らかさに気づいたのか、まぶしげに陽光が射す方向へ顔を向けると、懐かしい記憶がよみがえる。
「今度、朝日ヶ丘にリハウスしてきました。白鳥麗子です」
画面は14歳の宮沢りえが転校生として、挨拶するシーンへ──。
これは、6月4日から放送されている「三井のリハウス」のCM「リハウスって何?」篇の一場面。宮沢が同CMで演じた中学生、白鳥麗子が母親となって、34年ぶりに朝日ヶ丘へと帰ってくるシチュエーションである。おかげで、サラサラのロングヘアで制服姿の美少女時代、その美貌を保ったまま見事に熟れた現在の宮沢、その両方を同時に味わえる贅沢な30秒間となっている。
それも広告主である三井不動産リアルティの並々ならぬ思い入れがあったればこそ、宮沢の34年ぶりの再出演が実現できたという。広告代理店関係者によれば、
「『リハウス』というブランドが世間に広く認知される契機となったのが、白鳥麗子のCMです。クライアントにしてみれば、宮沢は恩人みたいなもの。思い入れがあるのは当たり前で、それに応えるべく、制作スタッフはかなり力を入れたそうです。最後のサウンドロゴも宮沢のアカペラを採用するなど、作り込んだCMになったのは、そのためです」
この新作CMを見た読者の中には、87年に受けた白鳥麗子の衝撃を思い起こした人も多いだろう。アイドル評論家の北川昌弘氏も、そのひとりだ。当時の鮮烈な印象をこう振り返る。
「転校生が美少女だったなんて、漫画の世界にしかないと思われていた。それを実写で見せられたんですから、喜びを超えて驚きでした。白鳥麗子という名前のベタさを宮沢りえのルックスで忘れてしまうほど、完璧な美少女でした」
芸能史においても、宮沢の登場はエポックメイキングな出来事だった。
「80年代後半は、おニャン子クラブを頂点とするグループアイドル全盛期でした。いわば、質より量の時代。その揺り戻しが起きたのです。まず後藤久美子(47)が現れ、直後の宮沢登場で、CM美少女の時代を決定的なものにしたのです」(北川氏)
当然、宮沢自身も白鳥麗子を演じたことで、大ブレイクを果たす。映画やドラマの主演はもちろんのこと、バラエティー番組にも引っ張りだことなるのだ。