スマホもパソコンもなかったけれど、とてもおおらかだった昭和の性。夕陽の海岸線に向かって走り、そのまま交わりが始まった。
海辺で脱いだ多くの女優に共通するのは、それが「事実上のデビュー作」であることだ。映画評論家の秋本鉄次氏は、浅野温子が16歳で演じた「聖母観音大菩薩」(77年、ATG)を例に取る。秋本氏によれば、まだ無名だった当時の至宝映画で、巫女の役だった浅野は、海岸の小屋で恋人との情交シーンを演じたという。砂浜で横たわり、引き締まった生まれたままの姿も披露しているとのことだ。
浅野は首を絞められながら犯されたため、初体験と同時に死んでしまうというラストシーン。ピンク映画で数々の傑作を残した若松孝二監督らしい衝撃作だった。同じくATGでは、桃井かおりが鮮烈に登場した「あらかじめ失われた恋人たちよ」(71年)も印象深い。監督は、東京12チャンネル(現・テレビ東京)のディレクターだった当時の田原総一朗氏である。
桃井が石橋蓮司、加納典明と旅を重ねるロードムービーのタッチでカメラが追う。マッパで海に入っていく桃井に加納が全力で迫り、波打ち際で2人の体はもつれ合っていく…。田原氏は本誌に、金沢のロケ先で桃井が部屋を訪ねて来て、こう言ったことを告白している。
「私はずっとロンドンに留学していて、男の人とキスしたこともなければ握手したこともありません」
田原氏は桃井の覚悟を、そっといなしたそうだ。
日本人離れした肢体で一躍、映画界に旋風を巻き起こした烏丸せつこは、脱いだ作品も多い。フランス映画をリメイクした「マノン」(81年、東宝東和)は今でもインパクト大だ。
「佐藤浩市と橋の下で青カンをやっているシーンも強烈ですが、なんといってもラストですね」と話す前出の秋本氏によると、それはすでに死んでいる烏丸を、佐藤が担いで砂浜を歩くシーンで、「血まみれのシャツが切り裂かれ」右のバストが「ポロンと飛び出ているのが目を引きます」とのことである。
日活が“ロマン映画”に移行する直前に公開された「八月の濡れた砂」(71年)は、青春映画の傑作として名高い。タイトルにあるように、全編が海を舞台に繰り広げられるが、まだ14歳だったテレサ野田の演技は語り草となっている。
不良たちに集団暴行されたテレサは、全脱ぎ姿になって、海水で身を清めるように洗い流す。この登場シーンは、ハーフ特有のエキゾチックな顔立ちとともに観客をどよめかせた。
同じく海岸での暴行場面を見せたのは、朝ドラ「ふたりっ子」(96年)の好演が紅白出場経験にもつながった河合美智子だ。まだ10代で演じた「恋人たちの時刻」(87年、角川春樹事務所)から、その部分を再現すると。前出・秋本氏によれば、海を見つめていた河合が、バイクでやって来た2人の男に性的暴行をされてしまうという。服を脱がされアンダーウエア1枚をはいている姿になったが、「大柄で肉づきのいいボディでしたね」と振り返った。
本来の主演は渡辺典子だったが、脱ぎのシーンの多さに辞退。河合が見事に代演を果たしたことになる。
日本で初めて食をテーマにした映画「タンポポ」(85年、東宝)で、ほんのワンシーンながら、色香を振りまいたのが洞口依子。殺し屋の役所広司が訪れた海岸で、海女役の洞口が海から上がる。白い海女服が水に濡れ、透けて見えるバストトップに役所の目が留まる。
そして、カキの殻で出血した役所の口を洞口が舐め上げ、やがて唇を絡め合う。静かな波の揺らぎが艶っぽいムードを高めていた。
最後は、カリスマシンガーとなった今井美樹の記念すべきシーンを。映画初出演だった井筒和幸監督の「犬死にせしもの」(86年、松竹)で、驚きの場面に挑んでいるのだ。前出・秋本氏によれば、「漁船が行き交う港の一角で、海賊たちに襲われます」とのことで、最初は小用を足すと見せかけて海に飛び込み、「そのあとは覚悟を決めて『脱いだらええんやろ!』と自分で服を脱ぎ、あぐらをかく」という。秋本氏によれば、突発的な脱ぎシーンで、「取り囲んだ男たちがカメラでバチバチと撮影会を始めます」との展開に。大きめなバストトップが目立ったというが、「まさしくワンアンドオンリーな場面でした」と指摘する。
もちろん、今井が脱いだのは、これが最初で最後である。