「愛する二人別れる二人」が打ち切りとなったのは99年。同時代の90年代半ばから2000年代の途中まで「出演者仕込み屋」と称される達人女性が存在した。自戒を込めて、懺悔告白をしてもらおう。
あの頃は大らかな時代だった。「ヤラセ」ではなく「作り」と呼んでたわよ。
本来は外部のリサーチャーが受ける仕事だけど、予算がないと“ヨゴレ仕事”は全部、アタシたちADやAPに回ってきたの。
そもそも収録の1週間ぐらい前に「互いに浮気し合っているカップル」「何股もかけている男性」「年をサバ呼んでた」「離婚歴を隠してた」とか、いくつか発注があるんだけど、2~3日で都合よく見つかると思う?もちろん、純粋に探してた時期もあるけど、やっと見つけたカップルがそんな面白いエピソードを持ってるはずないでしょう。とはいえ、素人を出演させるまでにはディレクター(以下、D)の面談というハードルもあった。仕込むといっても、あからさまなウソ芝居のカップルを出してもうまくいかないのよ。だから途中から、素人出演者を指導して育成することにしたの。
若い俳優やタレント、アーティストなんかに知り合いがいたから、彼らに会いたいかって、ミーハーな女の子たちをホームパーティーに呼ぶの。別の男性陣も呼んで、まあ、5~6人で合コンよ。楽しく飲んでもらって、なんとなく気の合う2人が見えてきたら、「あんたたち、付き合っちゃえば」って。リアリティーを持たせるために、実際に男女を交際させるところまで持っていくよう目指したわ。それでメンバーを少しずつ入れ替えながら、2~3日に一度、同じ部屋で繰り返し合コンするのよ。そうすると、ほぼ生活を共にする男女たちはそれぞれの趣味や癖、エピソードを互いに共有するようになる。実際に付き合ったり、別れたりするカップルもいるから、もはや他人ではなく、ボロの出ない自然体の関係が出来上がってくるの。
「あなたたち2人で番組に出ようよ」って持ちかける頃には、みんな仲間だから、たった1万円の安いギャラでも出てくれたし、ご飯食べさせただけでギャラはいらないって子もいた。男には役者の卵もたくさんいて「役者の仕事として」って簡単に引き受けてくれたし、今では売れっ子になっちゃってるのもいるわ。
ただ、バレそうになったことはある。極端に年齢差があるカップルの設定だったんだけど、年齢を聞かれた男が「わかりません」って‥‥。たまたま出演していたタレントさんが「緊張してド忘れしたのかな」って、フォローしてくれたからよかったけど。
収録後の“反省会”も楽しかったな。「あのタレントのツッコミに冷や冷やした」とか「あの時の泣きはプロ以上だね」なんて。それを聞きながら“ネクストバッターズサークル”に立ってる状態の別カップルが「もっと盛り上げてくるぞ」なんて誓ってるの(笑)。
当時、複数の番組を担当してたけど、どの現場でも、他人を演じてる素人が収録に参加してるって実態を知ってたのは、スタッフが10人いたとして、プロデューサーと放送作家、私たちぐらいで、せいぜい3~4人。Dは知らない体だった。現場監督が把握してるとテンションが下がっちゃうし、ましてやタレントに知られたらってことでね。でも、収録前にDが素人の耳元で「派手にやっちゃっていいから」なんてささやくことも日常で、実情を知らないわけはなかった。結局、問題が起こったら知らぬ存ぜぬで、トカゲの尻尾切りしようっていうのが見え見えだったわ。「愛する二人」と一緒ね。だけどアタシも、視聴者の皆さんをダマしちゃっててごめんなさいね。