韓国の中央日報は、こんな一幕などなかったことのように、2月7日、次のような見出しで浅田の到着を報じたのだった。
「ヨナが出られない団体戦‥‥笑顔の真央」
まるで、キム・ヨナとの対戦を避けたことを浅田が喜んでいるかのようなタイトルだが、五輪憲章には次の一文がある。
「オリンピック・エリアにおいては、いかなる種類のデモンストレーションも、いかなる種類の政治的、宗教的もしくは人種的な宣伝活動は認められない」
韓国メディアが「慰安婦」「旭日旗」「独島」「東海」などを持ち出しながら、キム・ヨナや五輪に関する質問を浅田にぶつけた深意を五輪担当記者が怒り心頭で語る。
「彼らは完全に浅田をハメるつもりで質問をしているのです。もし、浅田が『頑張ります』と答えようものなら、翌日の韓国の新聞やテレビなどでは、『浅田が独島を取り返すために、韓国に宣戦布告』『旭日旗にかける思いを真央が語る』などの見出しが躍ります。もちろん、五輪憲章を盾に国際オリンピック委員会(IOC)に訴えることも織り込み済み。このような質問をぶつけて、浅田を潰そうとしているのです」
浅田は8日に行われた団体戦のショートプログラム(SP)に挑んだが、精彩を欠き、トリプル・アクセルに失敗し転倒してしまう。韓国メディアの口撃が浅田の心理にプレッシャーを与えたのかは定かではない。しかし、韓国KBS放送は、彼女に与えたダメージを実感していたようで、浅田が滑る直前に喜色満面でこう解説したのである。
「浅田が演技を始めます。失敗しそうです」
さらに、浅田が転倒をするや、
「今や浅田はキム・ヨナのライバルにはなりえません。成熟した魅力的な女性と少女とで競っているようなものです」
と、貶めたのだった。
韓国には「水に落ちた犬は打て」ということわざがある。強い犬が二度と立ち上がれないように、徹底的に攻撃するという意味なのだが、その後の韓国内での浅田転倒の報道は、考えられないほど苛烈なものだった。10日の中央日報は、
「キム・ヨナのライバル‥‥浅田ではない」
とのタイトルで団体戦の模様を伝えたのだが、在韓のジャーナリストが語る。
「同社のウェブで見られる日本語版と、ハングル版の内容はかなり違ったものでした。韓国版では、『アイスバーグを訪れてきた安倍晋三日本総理も沈痛な表情を見せた』という内容も入っていました」
驚くべきは、ハングル版に記載された“ウソ”の数々である。
〈「浅田の次の競技に不安が生まれた」(日刊スポーツ)〉
〈「浅田はオリンピックの重圧に勝てそうにない」(スポーツニッポン)〉
日本のスポーツ紙が、浅田の転倒に触れ、悲嘆にくれたかのような記事を掲載したことを紹介しているのだが、両紙がこのような報道をした事実はどこを探しても一切ないのである。