「二足のわらじ」の難しさはいまさら言うまでもない。過去には選手との両立もままならず、ユニホームを脱いだケースも多い。はたして兼任監督に勝算はあるのか。その戦略に迫った。
「いつもと変わったことはないですよ」
2月22日、いよいよ始まったオープン戦に、中日・谷繁元信監督は、泰然自若とした様子で現れた。谷繁は軽口を叩きながら球場入りすると、例年同様、若手にスタメンの座を譲り、みずからはじっくり調整をしながら開幕を迎えるつもりだ。
沖縄・北谷でのオリックスとのオープン戦、兼任監督なら、ファンサービスのために、何らかの形で試合に出場すれば大いに盛り上がろうというもの。それをまったく気にしないあたりが、落合博満GMの監督時代とよく似ている。
自分たちのやるべきことをやれば、ファンは黙っていてもついてくる、という発想だ。だから、この時期にノコノコと試合に出ても、という考えがあってのことだが、あくまでマイペースの調整に徹するつもりなのだろう。
北谷でのオリックス戦は、打線がかみ合わず、1対2と敗れたが、2月23日、同じく北谷で行われた阪神戦では、4対2で快勝。新監督としての初勝利にうれしくないはずはない。だが、愛想もそっけもないままに監督室に戻る姿にも、「マスコミの前でべらべらとしゃべるな」という落合GMの“教え”が見え隠れするのだ。
谷繁が実際に采配を振ったのは、2月15日の韓国・KIA戦を含め6試合(3月2日現在)。特に、同じセ・リーグの巨人、阪神には、相手の力量をしっかりと見極めようとする姿勢と、「今年の中日は走ってくる」と思わせる積極采配で翻弄している。
その意味では、監督1年目とすれば、今のところ合格点ということになるのだが、懸念材料がないわけではない。
「谷繁が監督として、デンと構えているだけならば、このチームはただの(平凡な)チームですよ」と言うのは、横浜─中日で監督、コーチとして苦楽を共にした権藤博である。
「彼は監督になってはダメなんです。あくまで『選手・谷繁』でなければ存在意義はない。谷繁はああ見えてもなかなかしたたかですよ。自分の立場をわかっているから、捕手のポジションも貫くでしょうがね。選手7、監督3。いや選手8監督2ぐらいの割合でやってちょうどいいんじゃないですか。『監督・谷繁』の代わりはいても、『捕手・谷繁』の代わりはいませんから」
もちろん、谷繁も正捕手の座を譲る気持ちなどさらさらない。その気持ちが人一倍強いのは、過去の苦い経験があるからだ。