意外すぎるオルフェーヴルの1番仔だが、オルフェーヴルにとっての交配試験には、もう一つの重要な課題があったのだ。さる馬主が語る。
「オルフェの全兄といえば、“小さなヒーロー”と呼ばれたドリームジャーニーですが、1年目から肝心の種付けでつまずいてしまったんです」
現役時代から420キロと小柄だったジャーニーは、宝塚記念と有馬記念を制し、12年から種牡馬入りしたが、大型牝馬に乗れないというアクシデントが起き、種付けに90分以上もかかるケースもあったという。
社台スタリオンの種牡馬の展示会「スタリオンパレード2013」の中では、司会者がこんな報告をしていた。
〈100頭以上の申し込みをいただきながら、途中、まさかのオルフェーヴル張りの逸走をいたしまして、配合変更で35頭になってしまいました。普通、悪い情報はあまり流さないのがこの業界の常でございますが、なんとか受胎を40頭しております〉
つまり、兄の「交配回避」も、オルフェーヴルが小型の乗馬馬と種付けテストをした理由の一つだったわけだ。
実際、ジャーニーも翌年の種付けシーズンまでに、小柄な牝馬たちと交配の特訓を続けた。先の司会者はユーモアを交え、生産関係者の招待客に向けて報告を続けた。
〈昨年秋から十分な乗り運動、あるいは乳母や小さな馬を相手に、練習に練習を重ねてまして、今年は4頭の交配を何の問題もなくクリアーしております〉
結果、13年度の種付け頭数は78頭。ジャーニーの試練は今も続いているようだ。
まさに、競走馬人生に別れを告げてもなお、人気馬は種馬生活でも関係者の期待を一身に背負いながら生きているのだ。牧場関係者が話す。
「社台スタリオンは、昨年30頭の種牡馬で3871頭に種付けしているが、交配調整だけでも至難の業です。大種牡馬サンデーサイレンス(SS)系の後継馬は、その激しい“獣性”が特長であり、種付けの朝など一斉にいななき、『オレ様が先だ!』とファイトするぐらいです(笑)。2つの種付け場で、敵対視する間柄の種牡馬が顔を合わせないように、交配の順番にも気を遣うほどです」
発情した牡馬の気性の激しさは、命の危険にもつながりかねないだけに常に最善を尽くさなければならないのだ。