谷繁は、横浜と中日の両球団で、それぞれ1000本安打を放ち、2000本安打を達成しているが、あくまで外様である。中日には、監督候補としてチーム生え抜きのエリートで、WBCのコーチ経験のある立浪和義がいた。一度は監督をやらせたいと思っている中日ファンも多いはずだ。だが、白井オーナーが選んだのは、立浪ではなく谷繁だった。
その伏線は、落合が監督に就任した直後の05年のシーズン当初にあった。落合は、チームの構成上、誰をチームリーダーにしたらいいかと考えていたという。
「生え抜きの立浪か外様の谷繁か」と頭に描きつつも、就任の開口一番で「来季は横一線。ベテランであろうと関係ない。必死にやる者が勝つ」と、あえてベテランと若手を同じ俎上に載せて、その後の選手たちの様子をうかがったのだ。
この時、ガツガツと必死に頑張ったのが谷繁だった。一方、相変わらずマイペースだったのが立浪。これを見て落合は、谷繁をチームリーダーに指名することを決めたという。
周囲からは「落合は本当は監督をやりたがっているのでは」という声が上がっているのも事実だ。もちろん、谷繁本人の耳にもそうした声は届いている。しかし、そんな雑音は百も承知で、「GMとは毎日話しているよ。別に野球の話をしているわけだから、いつものキャンプとまったく変わっていない」と、意に介していない。さらには、キャンプで落合GMからバッティング指導を受けたことについても、「気がついたことをしゃべってもらって何が悪い」と平然と言い切っている。
GMと監督の関係について「明確な役割分担があります」と明かすのは、ある中日OBだ。
「落合GMは、契約更改で8億円の年俸の削減に成功している。これは落合GMでなければできないことです。これで半分以上、GMとしての役割は終わったようなもの。落合GM本人も『これからの仕事は、有望な人材を見ること』と言っているように、3月のセンバツ高校野球はもちろん、各大学のリーグ戦など、実際に見に行くことになるだろう。自分の目で見たもの以外信じない人だから、どういう結果が出るのか、楽しみです」
現場は谷繁に任せて、落合は今後の選手補強に向けて、有望選手の視察などに注力することになりそうなのだ。