12年ぶりのBクラス転落で、白羽の矢が立った谷繁元信新監督。落合博満GMの下、“傀儡政権”と揶揄する声もある中、2月18日の巨人との練習試合では、いきなり打線が猛爆発。起用された選手がイキイキと働き、積極野球を見せているのだ。はたして、チーム内に何が起こっているのか。そのウラには、谷繁監督が落合政権で学んだ勝利への大局観があったのだ。
「選手と監督の立場は半分半分ぐらいかな。試合になったほうが、ずっとラク。若い選手たちの成長を黙って見守っていればいいんだから」
2月18日の沖縄セルラースタジアム那覇、中日の谷繁元信選手兼任監督(43)はこう言って、宿敵・巨人との練習試合を見守っていた。落合博満がGMに就任すると同時に、3年目の高橋周平を三塁手から遊撃手に戻すことを進言。それをそのまま実行するかのように、3番遊撃で起用すると3回、適時二塁打を放ち、落合がGM就任と同時にドミニカルートを復活させて獲得したゴメスが、快打を放った。加えて、福田永将、谷哲也の若手コンビが結果を残したことで、「新生ドラゴンズ」を観客に印象づけた。
落合GMの描いた地図を谷繁監督が実行することで、チームは2年間の“アカ”を完全に洗い流そうとしている。落合──谷繁ラインで臨む今季の中日は、確実に変貌を遂げているのだ。
谷繁自身は相変わらず、クラシックスタイルのストッキングを履き、ジャージを着ている姿は監督就任前とまったく変わっていない。唯一、試合に出ていない時に審判に選手交代の指示を出す姿が、監督としての威厳を感じさせる瞬間でもある。だが、谷繁は「似合わんでしょう」と笑みを浮かべるのだった。
交代を告げられた選手がイキイキと働き、18安打12得点と打ちまくり、ライバル巨人を圧倒したことは、単なる1勝以上の大きな意義がある。首脳陣が変わり、チームが変貌を見せた時、「最初に変わったな」と周囲に見せつけることが、大切だからだ。
その点では、谷繁新監督によってチームが変わったことは、相手チームにも十分に伝わっていた。巨人の村田真一打撃コーチは、「若手がバットを振り込んでいるのはわかる。昔のチームに戻ったなという感じ」と落合政権時代の強い中日とイメージをタブらせ警戒した。
一方、谷繁は「相手が巨人だからといってまったく意識していなかった」とわざわざ無関心を装っていた。だが、本音のところでは、しっかりと巨人の新戦力を分析していたのだ。最大のライバルとの初戦となれば、勝ちたいと思うのは当たり前だろう。しかし、谷繁は明らかに「それ以上の収穫」を狙っていた。
3回一死一塁、レフト前ヒットで、一塁ランナーの岩崎恭平が思い切った走塁で先取点を奪った。この時、谷繁は2つのことを考えていた。1つは、相手チームに積極走塁のイメージを植え付けること。そしてもう1つは、巨人の新外国人アンダーソンの肩の強さと守備の敏捷性を見極めようということだ。こうした意図を持っていたのであれば、たとえ岩崎が本塁で刺されたとしても誰もが納得するはずだ。
谷繁野球は必ずしも「誰もが納得するプレーをする」ことに比重が置かれているわけではないが、“どのような意図で行われたかわからない”過去2年間のプレーとは雲泥の差だ。中日ナインにとって、谷繁野球は「即座に理解できる野球」なのだ。
そうした谷繁流は、試合終盤にもかいま見えた。8回、巨人はドラフト1位の小林誠司を捕手に起用した。四球で福田が出塁すると、点差が開いているにもかかわらず、すかさず盗塁のサインを出す。結果的に、ワイルドピッチになり盗塁にはならなかったが、これも谷繁の意図がはっきり見える。新戦力の小林の肩を見たかったのだ。