テリー マスコミの報道のしかたはどうなんでしょう。読売新聞なんかすごかったなぁ。別紙で、浅田真央さんの写真を大きく6枚ぐらい載せて。それだけ期待されるというのは、選手の気持ちとしてはどのような感じなんですか。
渡部 うーん、こういうことを言うと私がまた批判されてしまう可能性があるんですが、例えばプロの目でオリンピックの練習の流れを見れば「今回はもしかすると金が難しいかもしれない・・・・」といったことは何となくわかるものなんですよ。でも、マスコミは無理してでも「金、金」と言わなきゃいけない。だから選手は、そういったプレッシャーとの戦いですよね。
テリー なるほど。
渡部 オリンピックの審判は毎回練習を見に来ていて、誰がうまく調整できているかというのはわかるし、そこである程度の点数は頭の中に描いてるわけです。SP前の練習で真央ちゃんがトリプルアクセルを4回跳んで2回失敗した。回転不足などの調子の悪さがすでに見えて「これだったらいくら跳んでも点数は出せない」とか。
テリー 確かに、回転不足やエッジ間違いを取られていましたよね。
渡部 素人の皆さんが見れば「何で跳んでいるのに点数が出ないの。キム・ヨナ選手のほうがどうしてこんなにいい点数が出るの」と言いたくなるのはわかるんですが、違うんですよ。高さ、スピード、回転の軸、そういったものが、やはりプロの目で見れば、それぞれのコンディションの差が見えるものなんですね。
テリー 今回の羽生君のコーチは、キム・ヨナの先生だった人なんですね。
渡部 ブライアン・オーサーですね。
テリー コーチの力というのは、どれくらい影響するものなんですか。
渡部 例えて言うと、ゴルフにおけるキャディみたいなものです。キャディは「風がこうだから、もう少し左向いたほうがいい」とか「バンカーに入りそうだから、そこは少し抑えて、手前から攻めていったほうがいい」とか言うでしょう。特に選手は、秋の空と同じように気持ちが毎日変わるので、それを読むのがコーチの役目だと思います。
テリー よくコーチを変える選手がいますが、やっぱり相性があるものですか。
渡部 もちろんそれが100%の理由です。今回すごかったのは、アイスダンスで1位のアメリカも、2位のカナダのカップルも、どちらも同じコーチでした。
テリー そうなんですか。
渡部 4年前はカナダが優勝して、アメリカが2位なんですけど、同じコーチがずっと見てるんです。だから、それだけ選手のいいところを引き出せるという。
テリー コーチ料というのはいくらぐらいかかるものなんでしょう。
渡部 例えば安藤美姫ちゃんが習っていたニコライ・モロゾフは、値段が載っていません。他の人はリンクがある場所でギャラが提示されているんですけど。
テリー え、料金表が出てるものなの? それは1年とか半年の単位で?
渡部 いや、30分いくらとか、1時間いくらとか。
テリー へぇー! そこにモロゾフは載ってない。俺はまた1年契約とか半年契約とかだと思った。分単位や時給なんだ。
渡部 だから、ブライアン・オーサーが「金メダリスト・キム・ヨナ」を創った時も、彼のギャラはそのレッスン代だけですね。たとえキム・ヨナ選手が億万長者になろうと、コーチには関係ありません。