免震ビルの躯体(上部構造)の強度は「旧耐震基準並み」か「それ以下」──。前回は免震構造物が抱える構造的な脆弱性について指摘したが、その脆弱性は時に免震ビルを一気に倒壊させるリスクにもなり得る。
中でも懸念されているのが、免震ゴムの破断だ。免震構造に詳しい建築工学の専門家が、硬い表情で言う。
「地震の揺れを吸収する免震ゴムは、設計限界を超える揺れに襲われた場合、当然のことながら破断してしまいます」
そして、次のようにも警告するのだ。
「今回の新被害想定が対象としている地震のうち、どの地震が設計限界を超える揺れをもたらすのかは、地震が来てみなければわからないとされています。ただ、多くの専門家が口を揃えて心配しているのが、建物の直下や地表の断層が激しく動く、震源の極めて浅い巨大直下型地震です。この時、長周期パルスと呼ばれる地震波(6月16日配信の当連載第7弾の記事参照)が発生すると、免震ビルの基礎と躯体の間に設置されている免震ゴムが破断を来し、旧耐震基準以下の強度しかない躯体が一気に崩壊すると考えられています」
倒壊のリスクはそれだけではない。建築工学の専門家が続けて指摘する。
「仮に免震ゴムが破断しなかったとしても、想定外の揺れで水平方向に大きく移動した躯体が、基礎部分や免震ゴムを囲む擁壁に激突してしまう危険性があるのです。その際、躯体がどの程度の損傷を受けるかは不明とされていますが、長周期パルスが躯体にもたらす横揺れの加速度を考えると、躯体が擁壁への激突によって致命的な損傷を受ける可能性、要するに躯体が崩壊してしまう可能性は否定できません。いずれにせよ、地震に最も強いとされてきた免震ビルの安全神話は、すでに崩れ去っているのです」
しかし、免震ビルが抱える恐怖のリスクはこれだけではなかった。次回は盲点中の盲点とも言うべき、意外なリスクに迫りたい。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。