能登半島での群発地震が風雲急を告げている。
一昨年の暮れ以降、震度1以上を観測した地震が150回以上も続く中、6月19日には最大震度6弱、翌20日にも同5弱を観測する地震が相次いで発生。専門家は「今後、震度6強を超える大地震が発生する可能性もある」として、石川県をはじめとする近隣住民らに警戒を呼びかけているが、震源域から離れた遠隔地の住民らの危機意識は希薄である。
ところが日本全国の地震活動を監視、分析してきた地震学の専門家は、意外な事実を口にする。
「能登群発地震は東海から近畿、四国、九州、そして沖縄に暮らす人々にとっても他人事ではあり得ません。麻雀にたとえれば、まさにダブル役満クラスの南海トラフ巨大地震、それも13面待ちの国士無双がついにテンパイに至ったと考えられるからです」
こう指摘した上で、次のように警鐘を鳴らすのだ。
「糸魚川・静岡構造線(フォッサマグナ)以西の日本列島は、ユーラシアプレートの上に乗っています。また、太平洋側から押し寄せるフィリピン海プレートが、南海トラフと呼ばれる海溝部でユーラシアプレートの下に潜り込んでいますが、南海トラフ巨大地震はフィリピン海プレートに押し込められたユーラシアプレートが跳ね上がることで発生すると考えられています」
そして「ここからが肝心なポイントになる」と言って、この専門家が踏み込んで解説する。
「2011年の東北地方太平洋沖地震がそうであったように、このような海溝型の巨大地震が発生する前には必ず、内陸部での地震が頻発することが、これまでの研究で明らかになっているのです」
しかも能登半島は、断層が動きやすいとされる糸魚川・静岡構造線の北端(ユーラシアプレートで言えば東の北端)に位置しているのだ。地震学の専門家がさらに続ける。
「1995年の兵庫県南部地震、2007年の能登半島地震、さらには2016年の熊本地震も、前兆としての内陸地震に該当します。ただ、この時点での危機レベルは、ダブル役満クラスと言っても、せいぜいイーシャンテン(テンパイまであと1枚)止まりでした。ところが、4センチメートルもの異常な地殻隆起まで観測されている今回の能登群発地震は、まさに13面待ちの国士無双がいよいよテンパイに至った証拠と考えなければならないのです」
言うまでもなく、南海トラフ巨大地震は、自らリーチ宣言などしてくれない。ヤミテンのダブル役満に当たり牌を振り込んで青ざめることのないよう、東海以西の住民には能登群発地震を対岸の火事としない備えと警戒が必要である。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。