盗んだ商品の多くは転売で「換金」される。SNSやフリマアプリを用いて日本国内で売り捌かれるケースもあるが、
「ほとんどはベトナム現地に住む富裕層向けに売られている。物量が少なければ、ベトナム行きの飛行機に乗る操縦士やCAに小遣いを渡して運んでもらうが、基本は物流業者を経営しているベトナム人に頼んで空輸コンテナの荷物に紛れ込ませている」(X氏)
需要に合わせて盤石な流通網が練られているのだ。
もちろん、物流業者から売れ筋商品の注文を受けることもある。
「赤ちゃんの離乳食から風邪薬の錠剤まで、『口に入れるものは日本の商品に限る』と飛ぶように売れる。あと、極薄のコンドームも品薄になりがち。向こうでは指サックみたいな分厚いやつしか置いてないからな(笑)。ベトナムの日本製品専門店に定価で卸しても、商品の仕入れ原価はタダ同然だからガッポリ儲かるんだわ」(X氏)
この“万引きマネー”でベトナム人窃盗団はビジネスを拡大する一途。背後にマフィアさながらの大組織を構築しているようだ。窃盗グループのリーダーのタンが得意気に話す。
「最近は日本の競売物件や土地を買い漁っているんだ。安値で購入した茨城県や栃木県の一軒家に不法滞在のベトナム人を住まわせて家賃収入を得ている。イケイケのグループは大麻の栽培から販売まで手がけている。総じて月収は、俺みたいなグループのリーダー格で2000万円を下回らない。その上にいる複数のグループを統括する元締めともなると、毎月億単位の金が入ってくるはず。末端の実務部隊にも月に40万~50万円は渡している」
この実務部隊のボリュームゾーンこそ、極貧の同朋たちなのである。移民問題に詳しいルポライターの安田峰俊氏が説明する。
「ドロップアウトした技能実習生と出稼ぎ目的で来日した留学生です。いずれも、来日をコーディネートしてくれたブローカーに80万~150万円ほどの借金をしている。ところが、技能実習生の月収は各種雑費を引かれて10万円残るかどうか。留学生のほとんどは日本語能力が低く、就労できるアルバイトも限られるため高収入を望めません。これでは借金返済どころではありません。そこにSNSのベトナム人コミュニティーから救いの手を差し伸べる形で、犯罪組織に引きずり込む悪人がいるんです」
生活苦から逃げ出した先も地獄からは抜け出せそうもない。先のタンがうそぶく。
「少し前にブドウを軽トラックに積めるだけ盗んでパクられた奴なんか『自分たちで食べるために盗んだ』と最後まで個人の窃盗を貫き通した。まあ、ベトナムにいる家族や恋人が人質のようなものだから、警察に逮捕されても決して組織のことを話すことはないね。日本語の話せないベトナム人は、トカゲの尻尾切りのように利用させてもらうだけ。主犯格はノーリスクで稼ぎ放題なんだよ」
被害地は全国に広がっている。