ウクライナ難民の愛犬を特例措置で入国させる水際対策に、疑問の声が上がり続けている。
通常、海外から入る犬や猫は狂犬病予防法に基づき、動物検疫所で最長180日間の隔離が必要とされるが、4月以降、特例措置として検疫所外でも飼えるようになっている。
「狂犬病ウイルスは、神経系を介して脳神経組織に到達して発病します。すると脳炎を発症し、麻痺、精神錯乱を起こして、やがて死に至る。対処せず発症した場合は致死率がほぼ100%と言われ、毎年5~7万人の死者が出ています。ただし弱毒性のため、噛まれた場所を石鹸水でよく洗い、エタノールで消毒すればウイルスは不活化する。さらに狂犬病ワクチン接種の処置をすることで、発症を防ぐことができます」(サイエンスライター)
日本でもかつて狂犬病が蔓延した時代があったが、1950年に狂犬病予防法が制定されたことで野犬の管理や登録、予防注射などが徹底。海外で犬に噛まれ帰国後に発症した例を除けば、1957年以降は発生していない。
「ただ、農水省の今回の措置は危険性を孕んでいるという見方があります。通常、海外から日本に持ち込まれるペットは、狂犬病のワクチン接種を2回受け、基準以上の抗体価(血清中に含まれる免疫のレベル)の測定後、180日以上待機させなければならない。それが現在は、出国時にその証明書がなくても、日本の検疫所で一定量の抗体が確認されれば隔離機関が免除されるわけです。イギリスでは、ウクライナ難民が持ち込んだ犬の狂犬病のワクチン接種の偽造書類が19件発覚したといいます。そうした事態を考えても、農水省の救済措置には疑問が残ります」(前出・サイエンスライター)
「日本で65年ぶりに狂犬病が発生」となれば、それこそ大切なペットを手放さなければならない事態となるだけに、確実な日本でのワクチン接種を進めるべきではないか。
(蓮見茂)