若手実力派俳優の「競演」と言うべきだろう。なかなか、あることではない。竹内涼真と横浜流星が主演した「アキラとあきら」だ。
池井戸潤の同名小説を、「今夜、世界からこの恋が消えても」と「TANG タング」が公開中の三木孝浩監督が手掛けた。監督は2人の個性をうまく引き出しており、面白かった。心地よい作品と言ってもいい。
育った環境が全く異なった2人が、同じ銀行に入る。竹内演じる瑛は、倒産した町工場経営者の息子で、数々の辛酸を舐める。横浜演じる彬は、海運業などの事業を多角的に展開する大企業の御曹司だ。
だが、親族間でいさかいが絶えない。2人は入社時から群を抜く資質を見せる。
瑛は一本気で、理想主義者だ。資金繰りに悪戦苦闘する中小企業に肩入れする。竹内は真正面から役を演じた。いわゆる、直球型だ。
結構多い彼のアップのショットからはその都度、屈託のない爽やかさが匂い立つ。爽やかさと言ってしまうと、表面的で浅い意味に捉えられかねないこともあるが、そうはならない。うちひしがれる時もあるが、理想に向かう姿に妙な混濁感がないからだ。表情から内面を通底している心根の透明感が、一貫しているように感じる。彼の得難い個性の一端が垣間見られた。
一方の彬は、瑛とは対象的な信念を持つ。銀行マンとしての理想的な思い入れは、逆に足をすくわれかねないという姿勢だ。横浜は、いささか暗い表情の中に、その思いの強さをにじませる。強さの中には、内面的な優しさも透けて見える。両者は屈折した表情の中で、二重写しになると言えようか。
瑛のようには、理想の所在を明らかにしているわけではない。だが、彬の理想像は硬い甲羅を破るがごとく、表に出ようともがいている感じだ。その苦渋の様が、横浜の演技からひしひしと伝わってくる。
本作の重要なセリフを挙げたい。これは作品のテーマともかかわる。彬が瑛に言う「育ちがいいな」だ。
お金に不自由のない彬が、貧困の逆境をかいくぐった瑛に言ったから「おやっ」と思った。普通なら逆だが、「育ちがいい」が、ここでは家庭環境とは全く違った意味で使われている。いかなる環境下であろうと、理想をもって真っすぐに生きることの大切さだ。これが気恥ずかしく見えない。
加えて、さらに重要な言葉がある。理想に向かうための「確実性」だ。
この言葉は瑛の上司(江口洋介)の口から出るが、実のところ、理想を掲げるだけではどうしようもない。過程の実体が伴わなければ、周囲も納得しない。
そのためには、何をするか。本作はそこを堂々と、真正面から描こうとしている。そこがいいのだ。竹内涼真、横浜流星は、その狙いに存分に応えたと思う。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2022年で31回目を迎えた。