「一億総ウツ社会」と言われるようになって久しい。コロナ禍で心のバランスを崩しやすくなり、軽い症状も含め、精神疾患に罹る人がますます急増中だ。ぶり返すことも多く、休職後に仕事復帰が許されても、主治医に指示された薬を飲みつつ、長期間を見据えての闘病生活となることもある。これがやっかいだ。
以下は、会社員Aさん(40代・男性・既婚)のうつ病の記録である。本人の証言を聞こう。
「おかしいなと感じたのは、21年5月中旬頃でした。なんだか力が出ない、何をやっても楽しいと感じない。好きなお酒も受け付けず、食欲はない。寝つきが悪くなり、熟睡できない…。極め付きは、仕事のちょっとしたことにうまく対応できず、自宅で悔し涙とも言えぬものが流れ出てきたことでした」
この時、Aさんは課長職にあった。コロナ禍で仕事の進め方がガラリと変わり、上層部の方針も定まらない中、前例のない試みでも四苦八苦しながら、現場の最前線に立ちつつ、部下への指南もする。
「体力には自信があったものの、精神的な負担が日に日に増えていたのも事実でした」(Aさん)
基本的にマイペースの楽観主義者。仕事上でのミスも、場合によっては「てへぺろ」で乗り切ることもあるなど、処世術には長けていた、と自己分析する。
「カミさんに相談すると、医療機関に行ってみてはどうか、と勧められた。自宅から通いやすい場所にある心療内科専門のクリニックを探して、受診してみることに。初回は口頭での簡単な質問と心理テストを何種類か行い、血液検査も受けました。結果、典型的なうつ病だと診断され、薬が処方されたのです。その後は、週1回のペースで、クリニック通いが始まりました。医師の診断書が出た1カ月後から、仕事は完全休養することに。確か、6月下旬のことでした」
Aさんは、妻と2人暮らし。会社を休んで2、3週間程度は相変わらずやる気が出ず、昼間はソファーでウトウトしながらのテレビ三昧。睡眠薬を処方されていたため、夜もまた眠る。1日を通して横になっている時間の方が長かったそうだ。再びAさんの回想。
「少しずつ散歩に出るようになってきた頃に、久々にペットを飼うことを家族と検討。甥っ子と遊ぶのもいい気分転換になりました。コロナで外出しづらいご時世でしたが、周囲のススメで釣りを始めたのも、自分には合っていた」
その甲斐あって、仕事は11月1日から完全復帰。ただ、知り合いからの誘いもあり、転職しての再スタートとなった。この決断も功を奏したのか、12月頃から隔週での通院となり、薬の量(種類)も、段階を踏んで少しずつ減ってきている。
着実に快方に向かっているAさんだが、今もクリニック通いと薬の処方は続いている。ひと口にうつと言ってもタイプは様々で、こうすれば治る、という万人に効く方法はない。周囲がやたら「頑張れ」と励まさないことも、重要なことのようだ。「希死念慮を持つ」パターンの場合は、さらに適切な配慮が必要となってくる。
(島花鈴)