今年7月に開催された「FUJI ROCK FESTIVAL ’22」では、往年の名曲「おそうじオバチャン」を、ローリング・ストーンズの「Shake Your Hips」風ブギーナンバーにアレンジし、観客を大いに沸かせた…といえば、関西ブルース界のレジェンド、木村充揮である。
「天使のダミ声」と称される彼の原点は、75年にデビューしたブルースバンド「憂歌団」。メンバーは木村のほか、ギター・内田勘太郎、ベース・花岡憲二、ドラムス・島田和夫。98年の「バンド冬眠宣言」まで20年以上にわたり、不動のラインナップで活動を続けた。
憂歌団の魅力はなんといっても、耳にする誰もが「英語では?」と錯覚させる木村のしゃがれたボーカルと、それに絡む内田の指のつめ弾きボトルネックギター。そこに「やったれ、やったれ!」「やっやら、やったら!」といった、客との掛け合いがバッチリとハマるのだ。
そんな彼らの全貌が収められているのが、77年3月に発売された、3作目にして初のライブ盤「”生聞”59分!」だ。
AB面合わせて14曲。もちろん、彼らの名を全国に轟かせた「おそうじオバチャン」も収録されている。
実は1stアルバムに収録されたこの曲は当時、女性ビル清掃員を差別しているとして、女性議員から指摘を受け、放送禁止になっていた。だが、むろんそんなことでメゲる彼らではない。
さっそくアンサーソングとして、2ndアルバムで「お政治オバチャン」なる曲を発表。残念ながらこのライブ盤には収録されていないが、まさに「歌で受けたうっぷんは歌で返す」という、関西ならではの遊び心を感じたものだ。
そんなこともあって、関西ローカルだった憂歌団の知名度は広がり、結果、このアルバムは関西ブルースバントとしては異例の、5万枚セールスを記録した。
なお、アナログ盤のライナーノートには「至高の日本ジャズ全史」などの著者で音楽評論家の相倉久人氏と、タモリとの対談も収録されており、そちらも一見の価値アリ、である。
(山川敦司)