「クールボーイはどこから出て行ったのかしら」
連れ合いのゆっちゃんにも僕にも、全く心当たりはない。玄関のドアはもとより、各部屋のサッシなどもいちいち、空いていないか確認している。保護猫だからというより、3年前に引っ越してきた戸建ては近くを大きな幹線道路が走っていて、外に出たら事故に巻き込まれる可能性が高いため、猫がいるか、普段から気にかけていたのだ。
引っ越す前、マンションで飼っていたジュテ(当サイト連載記事「ウチの猫がガンになりました」参照)は外に出て自由に遊び歩く猫だったが、戸建てに引っ越してからは、かかりつけの動物病院の先生のアドバイスもあって、家猫として飼うようになっていた。
「外をひと回りしてくるかな」
見つかる気はしなかったが、とりあえず家の周りを歩いてみた。家に戻ると玄関横、台所の出窓を見た時だった。
出窓の網戸が開け閉めする右側にではなく、左側に寄っていた。出窓は横に細長い構造で、横に3本格子が取り付けられている。物の出し入れはしにくい造りになっているが、それでもクールボーイの大きさなら、簡単に飛び出すことができる。
中古で購入した我が家は築15年で、外壁塗装が必要な時期だった。業者と相談の上、雨が降りやすい時期を外し、冬になる前にやるのがいいと言われた。11月になっていよいよ取り掛かろうと、3階まで組んだばかりの足場が家をぐるりと囲んでいたのだった。
出窓は足場の間から見えた。組む時に養生や作業がやりやすいように、出窓の網戸を右から左に移した可能性があるのではないか。
家に駆け込んで「ここじゃないかな」とゆっちゃんに言うと、顔を見合わせ、納得したのだった。
「ジュテがよく出窓のところに行って、出たそうにジッと外を見ているけど、クールもいつの間にか、ジュテの後ろに張り付いていることがあるのよね」
出窓には内側にちょっとしたスペースがあり、猫2匹が座っても余裕がある。足場を組む作業員が出窓の網戸をずらした隙に、クールはピョンと飛び出した。そうでも考えないと、家のどこからも逃げ出すことはできないはずだ。
工事業者は帰った後だったので、翌日、事情を聞いてみることにして、疑心暗鬼だったクールボーイの脱走は、いよいよ現実になったのだった。
「逃げているといってもまだ遠くには行っていないと思うから、探しに行ってくる」と言って、半径1キロくらいの四方を探す作業が始まった。
我が家は2列に4宅が背中合わせのように建っている角にある。ここをA列とすると、A列の最も幹線道路寄りだ。まずその周辺にいないか、隣家の玄関や境界沿い、A列の隣はアパートだから階段や2階の廊下とか…。A列の最後、4番目の家は人が住んでいないため、庭が荒れていて、人目から逃れやすい、庭の片隅に隠れていないかと思いながら、身をかがめて探し回った。
だが、近所では見つからないので、よく買い物に行く川沿いのドラッグストアの周辺まで、自転車を止めては周辺の2、3軒を観察した。ドラッグストアに向かう途中には戸建ての住宅がずらっと並んでいるエリアがある。自転車を走らせていると、「ミュー」という鳴き声。もしやと辺りをキョロキョロすると、勢いよく子猫が走り出し、向かいの家の玄関に飛び込んで行った。
思わず自転車を降り、子猫が走って行った先を探してみる。クールボーイは見た目は白猫で、その子猫は虎っぽい柄。クールでないのは一目瞭然なのだが、淡い期待というのはこういうものだろうか。でも、その子猫が逃げた先に野良猫仲間になったクールがいるかもしれない…と。
その日はもう辺りが真っ暗になった夕飯時まで、探し続けた。クールボーイはどこに消えてしまったのか。
(峯田淳/コラムニスト)