クールボーイが脱走してから4日目は、朝、昼、晩と何度も我が家の並びの4軒目の空き家、隣の学習塾、その境にある学習塾の裏階段の辺りを見回った。
連れ合いのゆっちゃんも、空き家の塀から中を確認したという。だが、クールは僕が3日目に見たきり。もういなくなってしまったのかと不安になりながらも、このエリアは入り組んでいて、クールの隠れ家としてはもってこいとも思われる。夜行性の猫は昼はまったりと眠りながら、夜になって動き出す。そう思って夜を待った。
ところが、不測の事態が起きた。前日、カリカリを撒いたルートの途中の電柱に、「猫にエサをあげないでください」という貼り紙があったのだ。
ゆっちゃんに貼り紙のことを伝えると、渋い顔をしている。
「どこの家だろうね。でも、クールをつかまえるのが最優先だから、2、3日は目をつぶってもらうしかないよ」
その日も、夕方になってカリカリを学習塾の裏階段から家まで5、6センチおきに撒いておいた。夕方から雨が降り始め、カリカリが溶けてしまうのではと心配しながら…。
深夜になって空き家を見てみる。すると、またクールがいた! 今度は空き家の庭に面した縁側だった。外に縁台があるのだが、そこにクールと、クールよりも大きな茶虎の猫がいた。クールは尻尾を振りながら、楽しそうにしている。ややライトを照らしてみたが、気がつく気配はない。なんだか不良仲間についていって帰って来なくなった子供を見ている気分。
その場でつかまえたくても、懐かないクールは逃げてしまう。もどかしい。元気そうな姿にホッとはしたけど。いずれお腹をすかして我が家に戻って来る。そう願わずにはいられない。
その夜も玄関のドアを開けっ放しにし、前夜に続く寝ずの番である。先住猫のジュテとガトーがいつもと違う様子にやってきたが、2匹とも弟がいなくなったことをそれほど気にかけていないようだ。冷たいヤツらだなあ。途中からウトウトして寒さに身震いし、朝方になってベッドに潜り込んで5日目の朝を迎えた。
捕獲器を確認すると、クールは入っていない。やっぱりダメなのか。保護猫のクールを紹介してくれたMさんに連絡してみる。
「昨日の夜も空振り。捕獲器に入ってくれない」
「ダメダメ、諦めちゃ。捕獲器にご飯をちゃんと入れてある?」
「踏み板の先には好物の銀のスプーンの缶詰を入れているし、踏み板の辺りにはシーバのカリカリ。踏み板の先にCIAO(チャオ)ちゅ~るもおいてみようか」
「なんでもやってみて」
「捕獲器の前にちょっと多めにカリカリを置くとか」
「中にはクーちゃんが使っているタオルとかにおいがするものは敷いてる?」
「それは大丈夫」
「じゃあ、頑張って」
昼は空き家、学習塾の裏階段、その間の塀の隙間などを、何度も見に行ってみた。だが、クールの姿は見えない。
夕方、暗くなり始めた頃にまた、カリカリを撒く。前日のカリカリは雨でグシャッとなっているものもある。猫が食べたのかどうかはわからない。グシャッとなったカリカリは片付け、カリカリがないところに補足するように置いて家に戻った。
捕獲器を家の中から外に持っていき、ご飯もOK。準備は万全だ。
夜はビールを飲みながら、ゆっちゃんとクールのことなどをあれこれ話をしていた。
「捕まるかな」
「今晩も反応がなかったらMさんにまた相談してみるしかないかもね。迷い猫を探してくれる探偵もいるというから、そこにお願いしてみるとか」
「5日もたってから頼んでも、見つけるのは難しいんじゃないか」
夜の9時前、そんな会話をしている時だった…。
(峯田淳/コラムニスト)