夜になって、末弟の保護猫、クールボーイをお世話してくれたMさんに連絡を入れた。
「クールがいなくなったみたい」
「どうしたの」
「午後、いや午前中かもしれないけど、ずっと姿が見えない。脱走したんだと思う」
「もしかして、窓や玄関を開けたままだった? ダメだよ」
「違う、違う。実は今、外壁の塗装をやっているんだけど、足場を組む時に工事の人が台所の出窓の網戸をずらして、その格子の間から飛び出したんだと思う」
「探してみた?」
「とりあえず近所や、ちょっと離れたところまで探しには行ってみたけど」
「いないかぁ…」
Mさんの気が気じゃない様子が伝わってくる。
どうやって見つけ出せばいいのか。初めての経験で皆目見当がつかない。
「どうすればいい? 何か探し出す方法はある?」
Mさんはこれまで何匹も猫を飼って、経験豊富なので、良策を期待するしかない。
「クールボーイは懐かない猫ちゃんよね。抱っこさせないでしょ。見つかっても捕まえることができない猫(こ)はまた逃げちゃうから、いちばん難しいの」
「そうか、ダメか」
「でも、諦めないで」
しかし、探し回るくらいしか、見つける方法が思い当たらないのだ。
「猫を捕まえるための大きな捕獲器があることは知ってる?」
「えっ!」
初めて聞く話だ。
「それはどういう…」
「要するに、ネズミを獲る金網のカゴのようなもので、それをもっと大きくした金網のケージがあるの。それにカリカリとか好きな食べ物を仕掛けて、おびき出す」
「大きさは?」
「縦30センチ、横80センチくらいかな。ネットで検索してみて。猫、捕獲器で出てくるから」
すぐに検索してみる。すると、金網の箱の写真がズラッと並んだ。動物用捕獲機、踏み板式、野良猫、迷い猫…。大きさは79×28×33センチ。Mさんの説明とピッタリ一致する。
「ある、ある。でも、使い方、わかるかな」
「大丈夫よ。とにかくやらなきゃ。ネットで取り寄せると時間がかかるかもしれないから、ウチにあるのを今からすぐ送る」
Mさんも保護猫を世話した関係上、必死だ。その気持ちが伝わってきた。
「申し訳ない」
Mさんとはすでに30年来の付き合いだ。連絡が途切れていた期間もあったが、Mさんが都内で経営しているブティックにたまたま立ち寄ったら、「保護猫、紹介します」というポップがレジに置いてあった。先住猫のジュテを飼っていたので(本サイト連載「ウチの猫がガンになりました」参照)Mさんと話がはずみ、最初の保護猫ガトー、次にクールボーイを紹介してくれたのだった。
そしてその時、ふっと思った。仕掛けるといっても、どこに?
「そうよね。どこか見当はつかないの?」
「どこにいるかわからないからね」
「私も探してあげたいけど、ウチからは遠いものね」
「とにかく見つけ出さないことには、ということだね。夜中、朝も見て回るしかないか」
ビールを飲みながら話をしたのだが、ちっとも酔った気がしない。
連れ合いのゆっちゃんはMさんとの会話を聞いていたのだが、コトの重大さに深刻な顔をしている。
「私も探すから。その捕獲器って、Mさんのところからいつ届くのかしら」
「明日の午後か、夜かな」
「それまでに探そう」
早々に、飲みは切り上げる。再びクールボーイを見つけるために、11月に入って冷え込みがきつくなってきた夜の住宅街に出かけたのだった。クールは寒空の中、どうしているのだろうか。
(峯田淳/コラムニスト)