中国政府がゼロコロナ政策に関しする規制において、大幅な緩和策を発表したのは12月7日だった。無症状陽性患者や軽症患者の自宅療養を認め、陽性患者が出た施設や集合住宅の封鎖、大規模なPCR検査は廃止された。それからわずか2週間で、中国国内の火葬場には、コロナで亡くなった犠牲者を焼くための、長蛇の列ができている。
中国の火葬場事情を説明すると、日本でごく当たり前に行われている「死因を調べる病理解剖」や「警察による検死」は行われない。北京から東京の大学に留学中の医師によれば、
「コロナ前から病院で患者が亡くなると、そのまま火葬場に運ばれるので、医療ミスが起きても隠蔽し放題。たとえ腹の中にメスが刺さっていても遺体はすぐに灰にされ、証拠隠滅が図られます。正しい死因が診断書に書かれることはありません」
事実、中国ではコロナ陽性の患者が死亡しても、持病があればその持病を死因とする診断書が書かれている。90代、100歳超えの高齢者が老衰で亡くなっても「コロナ死」と騒ぐ日本とは対照的だ。
これまで中国に対し、習近平と中国マネーに忖度してきた世界保健機関(WHO)テドロス事務局長は12月22日、「正しい感染者数の情報提供を求める」と、厳しい姿勢に転じた。中国外務省の毛寧副報道局長は、テドロス事務局長の要請に対して直ちに声明を出し、「中国は一貫して報告してきた」と反発。今回の要求には応じない立場を明確にした。欧米の試算では、1日あたり100万人の陽性患者が出ているというのだが…。
それでも中国が緩和策をやめない根拠は、2つある。
感染爆発を認めてしまえば、国民の90%以上が接種していると「水増し発表」されているワクチンの効果がないことがバレる。業を煮やしたドイツは12月22日、中国国内のドイツ人在留者のために、日本でも接種されている「独ビオンテック社」製新型コロナワクチンを中国国内に発送する異例の措置をとった。もはや中国の感染爆発は「自国民を保護する」レベルの「バイオ戦争」の様相だ。
もうひとつの根拠は「中国の超高齢化社会」だ。中国では一人っ子政策の影響で日本以上に早いペースで少子高齢化が進んでおり、21年時点で65歳以上の高齢者の人口比率は14%。高齢者人口は1億1000万人を超えた。
同年5月、中国共産党は若い夫婦に3人目の子供の出産を認める、一人っ子政策からの方針転換を発表。だが、若い夫婦は共働きしながらそれぞれの両親4人と8人の祖父母の介護を背負わされるため、3人目を産む余裕はない。特に農村部の後継者不足は深刻で、食料問題と介護問題は中国共産党が隠蔽しようのない危険水域に達しているのである。
コロナ前から、北京や上海の病院には高齢者が殺到。日本を上回るハイペースの高齢化が中国経済のリスクであることは、日本のシンクタンクが指摘してきた。
流行中のオミクロン株、ケルベロス株、グリフォン株は、健康な若者は無症状や軽症で済むが、持病を抱える高齢者は重症化しやすい。習近平は若者や知的階級層による「ゼロコロナ政策への抗議活動」を口実に、高齢者の「自然淘汰」に舵を切ったようにも見える。1億人の高齢者が新型コロナで亡くなれば、国家危機の「超高齢化」は一夜にして解決し、新型コロナで鈍化した経済成長率を再び伸ばせるのだ。習近平はこのままコロナ緩和策を突き進むとみるべきだろう。
恐ろしいのは、中国での感染爆発で「新たな変異株」が誕生することと、日本国内での「薬買い占め」により、変異株が日本上陸した際に、国内で解熱剤を買えなくなることだ。我々は新たな変異株が凶暴化しないよう、祈ることしかできない。
(那須優子/医療ジャーナリスト)