先日、お昼の生放送、「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」(ニッポン放送)に出演された殿は、
「今、映画やってんだけどさ、これが大変なんだ‥‥」
と、実にうれしそうに、17作目にあたる、“北野映画最新作面白話”を快調に話されていました。過去作品の撮影時を思い返せば、わたくしにも同じような情景がいくつも浮かびます。そこで今回は、“北野映画とわたくしと”といった感じで、そのあたりの話をたっぷりと書かせてください。
まず、基本的に映画の撮影が始まると、殿は大変機嫌がよくなり、明らかにテンションが上がります。
そして、そのハイテンションのまま、撮影が休みの時など、楽屋などにて、必ずと言っていいほど、「こないだ現場でよ‥‥」といった感じで、最新の現場オモシロ話を、わたくしたち弟子に語って聞かせてくれます。さらには、
「お前、○○の役で俺の映画に入れといてやったぞ」
と、近くの弟子に対し、“いきなりの北野映画出演”といった、思いもよらぬビッグサプライズまで、たびたびもたらしてくれるのです。
あれは、もう17年も前、北野映画7作目にあたる、「HANA-BI」撮影中のこと──。あの頃、わたくしは殿の運転手になりたてホヤホヤの、まだ“殿との楽しい会話”などまったくできぬ、ひたすら日々黙々と運転をこなす、“たけし軍団カースト”の中でもはっきりと一番下に位置する、絶賛修行中な夢多き若者でありました。
で、後にベネチア映画祭にて金獅子賞を獲得することになる同作の撮影が快調に進んでいたある日、常に物語が変化していく北野映画らしく、突如、台本にはなかった、「タクシーを盗んでジャンク屋(解体屋)に売りつける、タクシー泥棒」といった役が浮上し、すぐさま役者をキャスティングしなければいけない緊急事態が発生したのです。
そして、殿と助監督さん、キャスティングディレクターの方々などが、そのタクシー泥棒役の年齢やファッションといった、具体的人物像についての小会議をしていると、殿の近くでウロウロし、穴だらけのジーンズにマニアックなプロレスラーの顔が大きくプリントされたTシャツを着て、髪を7割程脱色していた当時のわたくしを殿が指差し、
「あんな感じでいいんじゃねーか‥‥」
と、“あいつのファッションやたたずまいは、俺が求めているタクシー泥棒だよ”といった種の発言をされると、さらに殿は続けて、
「だったらよ、今から新しい役者呼ぶのもあれだから、北郷でいいだろ」
と、“お前、北野映画出演決定!”といった、恐ろしく光栄な決断をあっさりと強行採決されたのです。
わたくし、この時ばかりは、持って生まれた“いつだって、タクシー泥棒をやってそうな自分のいでたち”を神様に感謝したのは言うまでもありません。
とはいえ、役が決まってから撮影までの期間はわずか2日しか猶予がなかったため、衣装合わせなどしている時間などなく、汚いジーンズにプロレスラーTシャツといった、オール自前による衣装にて、人生初の銀幕デビューが確定されたのでした。
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