2月5日、「大喜利」に新メンバーの春風亭一之輔を迎え、初回の平均世帯視聴率15.8%と、相変わらずの人気ぶりをみせた日本テレビの長寿番組「笑点」。周知のように一之輔の席は、昨年9月に死去した三遊亭円楽の定位置。同番組では昨年から代役を立て、「大喜利」を回していたが、レギュラーメンバーの加入により、新たに船出したことになる。
亡くなった6代目円楽は、45年にわたり「笑点」に出演した。そんな彼が、うるさい芸能マスコミから「さすが円楽さん! 山田君、ザブトン持ってきて!」と言わしめた記者会見がある。それが、16年6月10日の不貞謝罪会見だった。
この日に発売された「FRIDAY」に、20歳年下の美女との「ホテル不貞」をすっぱ抜かれた円楽は、詰めかけた多くの報道陣を前に、緊張した面持ちで登場した。
「6代目円楽として芸道に一生懸命邁進していきますので、お許しいただきたい」
と神妙に頭を下げたが、そこは寄席という現場で「人間観察」の実践を踏んできた噺家だ。すかさず、
「フライデーの記者の車に乗ったんだけど、『それが汚ねえ車でねえ~』」ととぼけ、数名の記者がプッと吹き出すと、もうつかみはOK。そこからは、円楽の独壇場となり、
「『老いらくの恋』なんて書かれて名前を変えようと思いました。『円楽』改め『老いらく』でございますって」
夫人への釈明についても、「帰って(事情を)話すからと伝えたら、『そんな心配しなくていいから、とにかく頑張んなさい』ってね。身から出たサビだな、って言ったら『サビも味になるわよ』だって。これには参っちゃうね」と、お灸をすえられるどころか、逆に励まされたと説明したものだ。
さらには記者からの「なぞかけ」リクエストにも、
「今回の騒動とかけまして、天保銭と解きます。その心は、今の時代には通用しません」
との膝を打つ回答で、会見は拍手と笑いに包まれる、まさに円楽独演会で終了したのである。
記者会見の後、円楽をよく知る落語関係者を取材すると、こんな話を聞かせてくれた。
「円楽さんは、長い下積みを経験しているからこそ、遊び心を大切にする人。奥さんもアクティブな女性で、夫婦仲もすごくいい。もともと、名人とありがたがられるより、艶や色っぽさを忘れない粋な噺家でいたいと言っている人だし、奥さんもそんな円楽さんの生き方を十分理解しているからね。間違っても離婚なんてないと思いますよ」
享年72。あの「ザブトン10枚」の記者会見を思い出すたびに、早すぎる死が悔やまれてならない。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。