中国のスパイ気球による諜報活動が世界的な批判を浴びる中、中国の公安当局が世界各国に設置している非合法の秘密警察、通称「海外警察」に対する厳しい非難の声が、アメリカをはじめとする西側諸国の間で再浮上してきている。
昨年9月、スペインの人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」は、習近平政権が欧米諸国など53カ国102カ所に「中国警察派出所」を秘かに設置し、習政権に批判的な在外中国人を強制帰国させるなど、人権蹂躙を繰り返している事実を暴露した。
同団体が公にした報告書によれば、海外警察は対外工作を担う中国共産党の中央統一戦線工作部の主導によって設置され、習政権に批判的な在外中国人の言動を監視するとともに、中国にいる家族にも恫喝まがいの圧力をかけているという。
その後、西側各国の政府やマスコミ、人権団体などが調査に乗り出した結果、例えばアメリカでは「習政権の政策に抗議するデモに潜入した工作員に殴られた」「中国共産党を批判してきた中国人弁護士が事務所で殺害された」といった、中国海外警察の関与が強く疑われる驚くべき人権蹂躙事案が、次々と浮かび上がってきている。
相手国の同意なしに領事館のような役割を持つ在外機関を設置することは、多国間の基本的な外交ルールを定めたウィーン条約に、明確に違反する。FBI(連邦捜査局)のレイ長官も「海外警察の設置は言語道断であり、主権侵害にあたる」と非難しているが、習近平の魔の手は日本国内にも及びつつある。
事実、件の報告書が日本国内に存在すると指摘した2カ所の海外警察拠点のうち、外務省は目下、福建省福州市公安局が東京都内(神田)に設置したとされる拠点と、江蘇省南通市公安局が設置したとされる所在不明の拠点について「我が国に対する主権侵害は断じて容認できない」として、それぞれ確認作業と実態把握を進めている。
しかも、海外警察設置の目的は、在外中国人の監視や粛清にとどまらない。習近平政権の闇に詳しい国際政治学者も、次のように警鐘を鳴らしている。
「日本国内に設置された中国の闇警察拠点は、ボランティア団体を装うケースなども含めて、2カ所以上存在することは確実です。加えて、これらの闇警察は日本にいる中国人のみならず、習近平政権に批判的な日本人も監視対象にしている。今後は、中国の公安当局にマークされた日本人が中国に渡航した場合、突然、スパイ行為などの濡れ衣を着せられて逮捕、勾留される、といった事態も想定しておく必要があるでしょう」
もはや非合法行為の限りを尽くす「ならず者国家」と呼ぶほかはない状況である。