驚きの悲報だった。落語家でタレントの笑福亭笑瓶さんが2月22日午前、急性大動脈解離のため、急死したのだ。
急性大動脈解離はその名の通り、三層構造になっている大動脈の血管が何かの拍子で破れ、裂けていく疾患だ。笑瓶さん自身、15年に初めて急性大動脈乖離を起こした時のことを、インタビューで次のように明かしていた。
「朝9時半頃です。バリバリッという違和感が体の中を駆け抜けたあと、背中にそれまで経験したことのないような激痛が走り、その場に倒れ込みました」
自分の血管が裂けていくのがわかるのだから、なんと恐ろしいことか。
この時は一緒にゴルフをしていたタレントの神奈月が笑瓶さんの異変に気が付き、救急搬送して一命を取り留めた。都内の循環器科医によれば、
「裂けた部位が心臓に近ければ近いほど、致死率は高くなりますが、とにかくすぐに救急搬送することが重要。カテーテル検査との同時進行で金属製の網をかける、あるいは人工血管に交換するなどの緊急手術を行います」
笑瓶さんの他にも、21年5月には人気漫画「ベルセルク」の作者・三浦建太郎氏が大動脈解離によって、54歳の若さで死去。17年11月にはアニメ「アンパンマン」のドキンちゃん役の声優・鶴ひろみさんが首都高速道路を運転中に大動脈解離を起こし、停車した車内で意識不明の状態で見つかった。その後、搬送先の病院で死亡が確認されている。57歳だった。
働き盛りの40代や50代で発症することは珍しくなく、冬場の午前中、6時から12時の間に起こしやすいことが知られている。笑瓶さんが倒れたのも、寒波の影響で真冬並みの寒さが2日連続で続いた午前中だった。防ぐ手立てや治療法はあるのか。
「大動脈解離の原因は高血圧と喫煙、糖尿病、遺伝的要因です。そのほか意外なところでは、睡眠時無呼吸症候群も原因となります」(前出・循環器科医)
ここで気を付けたいのが「仮面高血圧」「昼間高血圧」だ。「噂の!東京マガジン」(BS-TBS)での笑瓶さんの共演者たちは、ワイドショーのインタビューで「笑瓶さんの血圧が高かったとは聞いていない」と話している。
定期検診の際に高血圧と指摘されていない人でも、長時間座ったままでいる運転手やシステムエンジニアなどのデスクワーク職、あるいはストレスの多い業種、残業や睡眠不足が続くと血圧が急激に上がる「昼間高血圧(ストレス下高血圧)」を引き起こす。結果、急に大動脈に負荷がかかり、血管が裂けるのだ。
普段から高血圧を指摘されている人が降圧剤を飲んでいるケースがあるが、「仮面高血圧」「昼間高血圧」は検診では引っかからないため、無自覚のまま。突如として大動脈解離を引き起こすのだ。かといって今の時代、ストレスをゼロにすることなど不可能だろう。
トイレで力まないよう緩下剤を飲む、短時間でもいいので、目を閉じ横になって休む。あるいは、体をほぐして血流を改善する。そんな対策で日中の急激な血圧上昇を防ぐしかない。
まだ寒いこの時期、背中や胸にのたうち回るような激痛が走った時には、迷わず救急車を呼んでほしい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)