先日、チケットぴあのサイトを見ていると、カルーセル麻紀が3月28日に札幌市で開催するイベント告知を目にした。今年で傘寿(80歳)を迎えるというカルーセル。同イベントには、同郷の直木賞作家・桜木紫乃や、女装家でタレントのミッツ・マングローブも出演。司会は元NHKアナの猪飼雄一氏が務めるようだ。
久しぶりにテレビ出演する彼女を見たのは、今年1月27日放送の「アナザーストーリーズ 運命の分岐点─“オネエ”たちは闘った~知られざる勇気の系譜~」(NHK)。番組はマツコ・デラックスやIKKO、はるな愛など、人気「オネエ」タレント活動の原点で、彼女たちが「あの人のお陰」と口を揃えるパイオニアを追っていた。それがカルーセルだ。差別や偏見に屈せず、いかにして「オネエ」の道を切り開いてきたかを描いていた。17年2月にBSで放送された映像に手を加えたものだったが、なかなか見ごたえのある内容だった。
さて、ここで筆者が思い出す、カルーセルの記者会がある。「薬物使用容疑での逮捕から処分保留で釈放」(01年11月20日)と、「性同一性障害特例法施行に伴う戸籍変更」(04年10月28日)の2つである。
彼女は19歳でタマ摘出手術、30歳で性転換手術を行い、身も心も女性として生まれ変わったものの、戸籍だけは男性。そのため、薬物逮捕時は留置場内で男性として扱われたそうで、会見では、
「これまで一度も男性の肌着を身につけたことがないでしょ。Tバックやシルクの肌着などを持っていったんだけど、認められず…」
「ヤダー!」と泣きわめいたが、当然のことながら、特別扱いは認められず、
「初日は他の拘置者が見ている中、スッポンポンで身長・体重を測って、お風呂も5日に1回。しかもドアは開けっ放し。なので湯船には入らず、しゃがんでシャワーだけ浴びました」
釈放後は3カ月ぶりに病院で女性ホルモンの注射を受けた、と告白したものだった。
そんな彼女に吉報が届いたのが、留置場体験から約3年を経た04年9月末。申請していた戸籍変更がようやく認められ、新しい本名の「平原麻紀」(以前は徹男)で記者会見に臨んだ。
「まさかこんな日が来るとは…。性転換手術をしたモロッコの病院の前で『女になったわよ!』と叫びたい」
満面な笑顔でそう語ると、
「若い子、バリバリにおいで! 私まだまだイケ~す」
と目を輝かせたものだ。とはいえ、会見の前には大喜びして酒を飲みすぎ、転倒。肋骨にヒビが入っていたという後日談も。その何事にも動じない貫禄に、ススキノから這い上がってきたオネエのド根性を見る思いがした。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。